以前から起業相談を受けている23歳の男の子が、憤慨していた。
「もう腹が立って腹が立って……話を聞いて欲しいんです!」と言うので、経緯を説明してもらった。
聞くと、「いや、キミが悪いだろ……。僕でも怒るぞそれは」という話だった。
この原因を、最も簡単に言えば
何者でもないあなたのアドバイスは、誰も求めていない
ということを、彼が認識していないことだ。そのために、「オレのアドバイスを邪険にしやがって!」という怒りが発生していた。
この認識まちがいは、彼だけでなく、きっと多くの人の中にある。
飲み屋で人に説教しているおじさんなんてほとんどそうだ。
おじさんの認識はいまさら直せるかどうか怪しいが、冒頭の23歳の男の子はまだ直せるような気がする。
そして、多くの、同じ間違いを抱えている若者たちも、まだ直せるような気がする。だから今日はそのことについて書いてみようと思う。
23歳の彼の「怒り」
まずは、彼の「怒り」エピソードを、簡潔に見せよう。
以下のエピソードに出てくる「他社」も、その手の会社だと思って読んでもらえればよい
勉強になると思ったので、自分が起業するのと同じジャンルの他社オフィスを見学しに行こうと思ったんです。そこも創業したばかりで、経営者は歳も近い。しかも、学生時代にイベントで少し会って話したことがあったので。
で、「見学させてください!あと、○○とか○○について教えて下さい!!」とTwitterにDMを送ったんですが、返信がなかったんですよ。
まあ忙しいんだろうなと思って、今度は公式サイトの見学申し込みフォームに丁寧な申し込みを送ったんです。まあ基本的には保護者や生徒向けのフォームなんですけど、しっかりした文章を書けば見学くらいさせてもらえると思ったんです。
そしたら、こちらも返信がなかったんですよ!不愉快な気分になりました。
で、その後にそこが無料で一般開放している日があったので、行ってきたんです。
そしたら経営者が出てきました。僕は当然「返信しなくてすみません」と言われると思ったのですが、そんな素振りすらないんですよ!信じられない!
あと、見学に行った感想としてもツッコミどころがいっぱいあったんですよ。
・どこのインターフォンを押せばいいのか分からない。住所では2階と書いてあり、2階のインターフォンには会社のキャラクターも描いてあるが、奥の方には他人の表札が見えていて押して良いのか不安になった。不登校の子は新しい場所は不安なので、もう少しわかりやすく書くべきではないか。
・インターフォンを押して出た経営者の声が事務的なトーンだ。不登校の子はやはり不安だから、もっと優しい温かい声の方がいい
・室内に入ってから、居心地が悪い。スタッフがたくさんいるのに、全然コミュニケーションを取れない。なんでこんなコミュニケーション能力ないヤツがスタッフやってるんだ?
・経営者にも同じものを感じる。実は学生時代にイベントであったときも同じものを感じた。そのときにも、わざわざ遠方から来た客に「わざわざ来てくださってありがとうございます」みたいな声掛けも何もなしでほったらかしだった。
・せっかく熱意があるのにもったいない
こんな感じです。
だから、終わった後にこの内容を全部経営者にDMしたんですね。もちろん僕が腹立ってたっていうのもあるんですけど、すごくビジョンがいい会社だからもったいないなと思い、直したほうがいいよなという親切心があってです。
そしたら、ブロックされたんですよ!
もう腹立って腹立って!これって僕が悪いんですかね?
という、内容だった。皆さんならどう答えるだろうか。
僕の回答は、
である。
「自分は何者かである」という錯覚
今回の23歳男の子も、別に悪い人間ではない。
にも関わらず、今回の変な怒りを抱いてしまった理由は「自分は何者かである」という錯覚であるように思う。
その錯覚があるから、「自分が尊重されていない」と怒るし、「アドバイスをしてやったのにブロックだなんて!」と怒る。
この現象は彼に限らず、いたるところで散見される。Twitterでは毎日のようにこの手の怒りが飛び交っているし、飲食店で店員にキレるおじさんも出現する。
こういう人たちにはっきり言うなら、あなたは何者でもないし、何者でもない人からのアドバイスは、誰も求めていない。
この認識さえ持っていれば、23歳の彼も変な怒りを持たずに済んだのにな、と思う。
向こうの経営者の立場に立ってみれば、「何かうるせえやつがメッセージ送ってきたから無視してたら、オープンイベントの時に押しかけてきた。しかも何か偉そうにいっぱいダメ出ししてきた。うるせえからブロックしよう」という、しごくまっとうな発想になる。
だが、彼の視点では「オレのメッセージを再三無視した上にお詫びもない。その上、親切でアドバイスしてやったらブロックだなんて!ひどいヤツだ!」となる。自分が何者でもないという前提を抜きにしているから、このおかしな発想になるのだ。
何者でもない人からのアドバイスは、しんどい
一般に、何者でもない人からのアドバイスは無益であり、しんどいだけである。
以下、理由を説明しよう。
理由①指摘されなくても分かりきっている問題だから
事業をやる経営者は、誰よりも何よりもその事業について考えている。
あなたは普段暮らしていて、プライベートに関する色々なことを考えるだろう。食事のこと、友人のこと、恋人のこと、趣味のこと、旅行のこと。
経営者は、その全ての時間をまるごと費やして、事業のことを考えていると思っておいて問題ない。
じゃあプライベートに関してはいつ考えてるのかって?全く考えていないか、睡眠を削って考えているかのどちらかだ。
ザッカーバーグは服を選ばないために同じ服しか着ないという有名な話があるが、あれに近いことをしている中小企業経営者もたくさんいる。
僕が親しくしている小さな会社の社長は、飲食店ではメニューを見て一番最初に目に入ったものを食べると言っていた(し、実際に食事をともにするといつもそうしている)。メニューを見て決定する時間・労力コストを削りたいらしい。
ここで、アドバイスの話にもう一度戻りたい。
どうだろうか。あなたのアドバイスは、メニューを見る時間すらも削って事業のことを考えている経営者が思い至らないレベルの話だろうか。
99.9%はそうではないだろう。
あなたの「もっとこうした方がいいよ」は、経営者にとってはわかりきっていることであり、「何らかの事情があって解決できない問題」または「優先度が低いために後回しにされている問題」である。
まず間違いなく、「未発見の問題」ではない。
そして、そんな「わかりきった話」を聞かされる経営者の気持ちを考えて欲しい。
宿題をやらないといけないと思いながら、手を付けられていない時に「宿題やりなさいよ!?」と怒られる中学生みたいな心境になるだろう。
理由②トレードオフを考えていないから
トレードオフとは、いわゆる「あちらを立てればこちらが立たず」の状態だ。
例えば、駅から近いところは家賃が高い、家賃が安いところは駅から遠いというような話だが、家賃に限らず、経営上の諸問題は、常にトレードオフとの戦いである。
- 店員を増やせば顧客満足度と回転率はよくなるが、人件費がかかる
- 美味しいものを出そうと頑張れば研究コストがかさむし、原価率が上がる
- 営業時間を伸ばせば売上は増えるが、経費も増える
したがって、この手の諸問題は常に、最適なバランスの場所はどこかを探るという最適化問題になる。
そして、何者でもない人のアドバイスはいつも、このトレードオフを考慮していない。
その味が実現できているのは、おそらく店の家賃を抑えているからだろう。”もっといい場所”に引っ越したら、同じ味をキープできるのだろうか。
僕もよく、何者でもない人からのアドバイスを受ける。
イベントに来たオジサンが、僕の作ったWebサービスを見たオジサンが、言う。
その度に僕は、乾いた笑いで
とテキトウに返事をする。
家賃の話なんかはまだその辺のオジサンにも分かりやすいが、「運営フローが複雑化するコスト」とか「Webサービスの実装コスト」なんかについては全く分からないので、良かれと思ってアドバイスしてくるが、全く意味のないアドバイスになる。
そう、何者でもない人特有の「トレードオフを考慮しないアドバイス」も全くの無価値だ。
トレードオフを考慮しないのであれば、全ての飲食店はもっと美味いものを出した方がいいし、大きくてキレイな店を借りたほうがいいし、立地が良いほうがいいのである。
何者かであれば、邪険に扱われることはない
ちなみに、23歳の彼は自分のアドバイスが邪険にされたことを怒っていたけど、何者かになれば邪険にされることはない。
相手のことを「何者かである」と思っている人は、その人の言葉を精一杯聞こうとするからだ。
例えば、僕はよく自分に来るTwitterのDMを邪険に扱っている(晒している)。
失礼な問い合わせが来る度に晒す、というスタイルで行こうと思います。
大学生、クソみたいな問い合わせめっちゃ多いぞ。 pic.twitter.com/q4etSw3BIn
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) March 6, 2018
突然来るDMは「こんばんは〜!会いませんか!」みたいなのも多く、そういうものはよく「失礼なDM」で晒して無視している。
しかし、無視できないものも当然ある。例えばこれ。
あの村の記事について、家入さん(@hbkr )からDMが来て、心が震えている。
すげえな。ブログ、書いてみるもんだね。 pic.twitter.com/T0keI8vo2d
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) June 21, 2018
少し前に「あの村やめる」記事がバズった後、連続起業家の家入一真氏からDMが来た。
最初に来たのは「記事読みました」という一文。普段なら晒すまでもなく無視かブロックする内容だが、相手は家入さんである。
僕は大学生の頃からよく彼の著書を読んでいた。思想にも影響を受けているし、大好きな起業家だ。当然、僕の「丁寧に扱おう」感はマックスになる。
家入さんが会って話そうとおっしゃるなら僕はどこにでも出向くし、言葉に全力で耳を傾ける。
これが、「アドバイスをする」ための正しい状況である。
相手から何者かであると認識されていて、相手がアドバイスを聞き入れる準備をしている状況。こうじゃないとアドバイスは意味がない。
頼むから、アドバイスをする前に、自分が相手にとって「何者かであるか」ということを考えて欲しい。
何者かであるかどうかチェックポイント
さて、最後に、「何者かであるかどうか」をチェックする方法だ。
家入さんの例は極端だったが、別に有名人じゃないとアドバイスをしちゃいけないというワケではない。その相手にとって特別な「何者か」であればそれでいい。
その条件は、
- 相手があなたのことを尊敬している(言葉で言うか、それに準じた表現をしている)
ということだけだ。
尊敬していない相手は僕にとって何者でもないから、アドバイスはしないで欲しい。
23歳の彼にアドバイスされた経営者も、おそらくは同じ気持ちだったと思う。
何者でもない人は、Twitterでリプライをしてください
ただし、何者でもない人の意見が大いに嬉しいこともある。それは「感想」だ。
感想は、嬉しい。モチベーションにもなるし、改善のきっかけにもなる。
感想は時に「ここが分かりにくいと思った」「もっとこうした方が良いと思った」という、アドバイスらしき形を取ることもあるから境目は曖昧だけど、僕は「返事をする必要があるかないか」で区別している。
ちょうどいいのは、Twitterのリプライだ。返事をしなくていい距離感が楽だ。感想を送るためにふさわしい場所だと思う。
自分が何者でもない人で、「もっとこうした方が良い」と思った人は、ぜひリプライを飛ばしておいて欲しい。僕は感想として受け取り、返事をしたりしなかったりする。間違っても直接会ってアドバイスしてやろうとは思わないでほしい。
感想は、積み重なると「データ」となり、自分のやるべきことを見直すための良い材料になる。これはとても大切だから、感想をリプライしてくれることはとても嬉しい。
以上、何者でもない人とアドバイスの関係について書いた。
23歳の彼のような、求められていないアドバイスをしてムダに怒ってしまう人が一人でも減るように、切に願っている。
何者でもない人用、感想ボックス→堀元 見Twitter