一ヶ月と少し前、こんな文章を書いた。
ぼくは村作りビジネスをやめる。そう決断するにいたった全経緯と教訓について
僕が経営者として回していた月額会員制サービスを撤退し、事業を売却する過程を2万5000文字の長文にしたものだ。従業員との軋轢や、資金状態の厳しさなど、事細かに書いた。
記事は大いにウケて、公開48時間で8万回ほど読まれることになった。
その中で、記事についてたくさんの感想を頂いた。かなり多かった感想として、「失敗談は本当に貴重だ」というものがあった。
そう。失敗談は世の中に本当に少ない。起業家・経営者みたいな人種は、大抵の場合「自分を強く見せたがる」からである。
でも、本当に面白いし勉強になるのは失敗談のほうだ。ビジネスにおいて「同じことをやって成功する」のは大いに難しいが、「同じことをやって失敗する」人はめちゃくちゃいる。失敗パターンを知り、回避するために、失敗談は役に立つ。
だから、僕は失敗談を読めるのを嬉しく思うし、自分もそういうものを書いていこうと思っている。
さて、先日の「村やめる」記事を読んで僕のことをフォローしてくださった皆様は、きっと、そんな失敗談が好きな皆様であると思う。
だから今日は、失敗談大好きな僕が、今までに読んで「これはいい!」と思った多くの起業家・経営者の失敗談を選りすぐり、紹介していく。
起業失敗の話。起業を志す皆さんに敗残者からお伝えしたいこと
記事はこちら→起業失敗の話。起業を志す皆さんに敗残者からお伝えしたいこと
借金玉さんの文章。何回読んでも本当に名文です。
一時期はGoogleで「起業」と検索すると一番上にヒットしていたこともあるそう。
これから起業をする皆さんになんとなくでもいいので覚えておいて欲しいなぁと思うことがあります。
表題の通りなのですが、人間は必ず裏切るということです。
ピンと来ない人もいるとは思いますが、少なくともそう考えておいて損はありません。もし起業をされたら、いずれ嫌というほどわかると思います。
(中略)
もし、その中で離反者や裏切り者が出たのであれば、それは代表取締役のあなたが悪いのです。
裏切った方が得な環境を作ってしまった時点で、あなたにはなんの弁解の余地もありません。それは全てあなたの責任です。その覚悟を決めてください。
これを受け入れ、「裏切りようのない」組織を形成する努力をしましょう。
借金玉さんのニューアキンドセンターの連載記事は全部同じテイストで、どれも死ぬほど勉強になります。
裏切り者の仕留め方。未来を誓い合った人間の5人に1人は裏切ります。
上の3本は特に良かったものですが、僕は借金玉さんのニューアキンドセンターの連載記事はどれも5回くらい読み返しております。めっちゃ役立つので、起業を考えてる方は全部読むのをオススメします。
どれも大好きなので細かく引用したいのですが、それをやってしまうと今日の記事が全部借金玉さんの文章で終わってしまい、まとめ記事をやる意味が消滅するのでやめておきます。
サンフランシスコで創業したスタートアップを解散した話
記事はこちら→サンフランシスコで創業したスタートアップを解散した話
こちらは、無駄話多めの青春群像記という感じ。
知見になる部分だけを抽出してハックに落とし込む借金玉さんの文章とは真逆で、余計な情報がふんだんに入っています。でもそれがいい。
最初に、少しぼくについての背景を説明したいと思います。
「シリコンバレーで世界を変えるプロダクトを作る」と宣言して、文系で大学を卒業してから23歳の時にサンフランシスコに来たのですが、英語が話せたわけでも、コードが書けたわけでもなかったので、気合いだけで渡米しました。
青春っぽい物語として読めるので楽しいです。「ウォーターボーイズ」とか好きな人は好きだと思う。
ただし、役に立つ情報もかなり散りばめられています。著者はとにかく勢い先行で戦おうとするタイプらしく、そういうタイプのためのサンフランシスコで生き残る戦略が詰まっています。
もちろん、「1年間C++勉強したよ!Swiftもちょっと書けるよ!」というだけのぼくが、シリコンバレーのスタートアップでエンジニアインターンに正規ルートで応募して「スタンフォードでコンピューターサイエンスやってて趣味でOSを自作しています」という優秀な方々と戦っても勝算がないことは明らかだったので、別の戦略を取ることにしました。「人たらし作戦」と名付けることにします。
(中略)
ツッコミどころ満載かつ、変な英語で非常に暑苦しい内容でした。しかし、これといった武器がなかったぼくにとって、これが考えうるベストな戦略でした。ミートアップやイベントにも頻繁に出かけました。誘ってもらったパーティや集まりにも必ず行くようにしました。
スキルもコネも何も持たない著者がゼロから頑張る感じ、「キングダム」とかを読んでる感じで楽しい。
解散を決める最後のくだりがとってもいいです。
また、大げんかや仲違いというはっきりとしたキッカケがあったわけでもなく、割と静かに解散に至りました。
その理由は
「共にエグジットまで持っていける」と思えなかった
からでした。1年という節目がもうすぐというとき、成果の出ていない現状のなかで、この先どうしていくか、どうなるのかを1人で考えました。「この先」とは具体的に言うと「エグジットまで」という意味です。
今の相方と「共にエグジットまで持っていけると思えるか」と自分に問うたとき、答えはノーでした。
「明確なエピソードはないが、解散になった」という、非常にリアルな終わり方。
また、「コードを書きすぎてしまった。仮説検証をもっとしっかりやればよかった」みたいな、スタートアップらしい反省点も大いに勉強になります。
1月の振り返り、妻の精神的DV
記事はこちら→1月の振り返り、妻の精神的DV
これに関しては、単独で面白い失敗談という感じではなく、「順調に売上をあげていたアフィリエイターが、Googleのアルゴリズム変動により悲惨な目に合っている」という一連の日記の1つです。
悲惨。とにかく悲惨。以下、部分的に抜粋していきます。
激減した売上ですが、回復することもなく、1月の売上は会社設立以来最低となりました。
売上は月々の役員報酬の額未満という情けなさ。
次の決算の後は、役員報酬を月10万円ぐらいにしようかと思います。
社会保険料の支払いがキツいので、なんとか圧縮したいです(できれば払いたくない。そんな余裕ない)。
売上がめっちゃ減り……
しかし、その後、妻の機嫌が悪い時など、折に触れて売上が少ないことをdisられます。
確かに自分でも売上が少ないことは情けなく思っていますし、家族にも申し訳なく思っています。
しかし、そのことを直接罵倒されるのは正直つらいです。
いや、正確に言えば、売上が少ないことを絡めて、私の人格を否定するような、醜い言葉を大声で、恫喝するかのように投げつけてきます。
(幼い娘の前で「そんなんで父親ヅラすんなぁぁ!!!」とか「はあ?寄生虫が偉そうなこと言うな!!!」とか「事故って死んで?」とか)
ツラい……これはとにかくツラい……
僕はあまり性格がよろしくなく、人の不幸話を聞くのが好きなので、「ツラいなあ」と思いつつ読むのをやめられませんでした。
この月の後にもこういう読み味の記事が連発しているので、前後も合わせて読んでいくとたまらないです。
奥さんに罵倒されるくだりがずっと面白くて読んでしまう。
文章自体はどうってことないですが、それゆえに「自営業はこういうリスクをはらんでるんだなあ…」という悲壮感が伝わってくるリアルな手記です。
人の不幸は蜜の味的な喜びを得たい方にはおすすめ。
Baltoサービス終了の背景
記事はこちら→Baltoサービス終了の背景
「Balto」というITサービスを売ろうと思って開発してみたけど、売れなかったというITサービス失敗談です。
今まで紹介した記事と違い、「売れるサービスを作るにはどうすればいいのか」「料金設定をどうすればいいのか」といった、ロジカルな分析中心の記事です。
Baltoについての説明はこちら。
スクリーンショットして「ここおかしいよ!」とフィードバックをするのを簡単にするサービス。
サービスとしては需要がまあまあありそうだなという感じなんですが、「毎月300万程度の赤字を垂れ流した」そうです。この辺の数字についてもリアルに出てきてて楽しい。
反省点としては、
- プロダクトのコンセプト策定にあたり、ユーザーの声を十分に聞く
- ユーザーに応じたプランを用意する
- 十分な競合分析
とのこと。1つ目の反省点なんかは、先ほどのシリコンバレーの記事にも通ずるところがありますね。
面白かったです。特にITサービス関係者は見ておくべき内容。
税務調査がやってきたシリーズ(会社経営漂流記)
記事はこちら→税務調査がやってきた〜序章〜(会社経営漂流記)
これは経営の失敗ではなく税務面の失敗なんですが、とても面白かったです。
税理士を入れていない一人社長がごまかしごまかし決算をしていて、税務調査が入って慌てた、という超リアルな失敗談。
文章もうまくないし、ブログも思いっきり無料ブログで、いかにも小さな会社の経営者が一人でやってる感じがリアルでいいです。
そんな中、10時きっかりに現れた調査官の鈴木さんと、上席調査官の田口さん。 鈴木さんは見るからに22〜23歳で仕事熱心な感じの方。田口さんは、還暦も近そうな小柄なおじさん。肩の力が完全に抜けきっているベテラン独特の余裕が有ります。なんか飲み屋の帰りに寄りました的な感じ。
田口「どうもどうも〜!ア〜これはこれは!(税理士に向かって)お元気そうで!」
税理士「どうもお世話様です〜。お元気そうで!」
田口「おたくの○○さん、元気してる〜?」
税理士「御陰様で元気にしていますよ〜」
(「税務調査がやってきた〜其の八〜」より抜粋)
めっちゃ面白かったのは、税務調査官と税理士の関係の描写。
「税務調査官は追加の税金を取りたい」し、「税理士は追加の税金を払わせたくない」ので、言うなれば敵同士なはずなんですけど、みんな知り合いでこんな和やかな感じなんですね。
世の中はプロレスで回っているという事実を改めて強く認識できる、楽しい描写です。
税務調査官が「ねえどうなの?ぶっちゃけ白黒どっち?」みたいなことを税理士に聞いてるっぽい描写もあったりします。
このブログ、ユーザビリティがイマイチで、目指すべき記事にたどり着けなかったりしますが、まあそれも人の良い経営者が片手間にブログやってるんだろうなという感じで許せます。
こういうリアルな文章が読めるのがインターネットの楽しさですね。
【好きなことで、生きていく】『レペゼン地球-DJ社長-』
動画はこちら→【好きなことで、生きていく】『レペゼン地球-DJ社長-』
文章じゃなくて動画なんですけど、これめっちゃ良かった。見た人も多いと思いますが。
単なるYoutuberの自分語りかな、と思って見たら、経営者の熱い失敗談でした。
以下、「経営者の失敗談」っぽい最初の部分を抜粋して要約。
バイトとかじゃなくお金を稼ぎたいな、と思ったんよね。
何も思いつかなかったんだけど、人脈つくりのためにパーティーにはよく行ってたんよね。
で、気づいたんよ。「パーティー俺が主催すればいいじゃん!」って。
当時俺がよく行ってたパーティーは一人3000円、50人みたいな感じだった。だからまあ売上は15万くらいになるわけ。
ってことは、会場費とかご飯の代金とかを合わせて12万とかにできたら、浮いた3万円は全部オレのものになるわけやん?
ホント、金額で言うと大したことないんだけど、これが俺の「バイトもしないでお金を稼ぐ」第一歩だった。
…でも、一回3万とかの利益だったら、まあ大きなお金は貯まらんやん?
だから、もっとデカい会場でやろう!って思ったわけ。300人の会場を押さえたよ。
で、めちゃめちゃ頑張った。渋谷とかに毎日立ったり大学とかに突撃したりして、「こういうのやってるから来てください!」って、必死で人集めた。
そんだけめちゃめちゃ頑張ったのに、失敗したんよね。結局50人くらいしか呼べなかった。
300人の会場に50人だけいるの、スカスカでめちゃめちゃ寂しいし、大赤字だし、ツラかったよ。
でもこれは俺のミスだから、しょうがないと思って、貯金全部崩して会場費払ったよ。めちゃくちゃ悔しかった。
めちゃくちゃ悔しくて、悔しくて、悔しいけん……「もう一回やっちゃおうwww」ってなった。次こそは、次こそはやってやる!と思ってね。もう一回同じ会場借りた。
俺ってそういうヤツなんよね。次ならできる!次はやれる!って思って、またすぐ次に行っちゃう。
DJ社長の最初期の経験が骨太に語られます。この後にも
- イベント失敗で全財産失った。ガスも水道も電気も止められて、真っ暗な部屋にいた。
- 「500人呼べれば九州最大のイベント」と言われる時代に、「福岡に2000人集める」と大見得を切った
- 福岡イベント業界からボロクソ批判され、嫌がらせも大量に受けた。
- しかし、結果から言えば大成功。同様のヒットイベントを次々に量産した。
- 関連団体も次々に出現、会社は極めて順調。あっという間に天狗になった。
- 詐欺にあって会社の現金をすべて失った
- 無一文になったダメージはすごかった。真っ暗な部屋にいればよかった頃とは違う。従業員への給与を払えないプレッシャーは尋常ではない
- 数千万の借金を返すため、再起をかけて実施した一大イベントは失敗に終わった。借金は2倍になった。
などなど。盛りだくさん。
バズるコンテンツにはバズるなりの価値があるな、と思います。
バカにしてて見てなかった経営者界隈の皆様はこの機会にぜひどうぞ。
青木雄二物語
これめちゃくちゃ面白かった。
「ナニワ金融道」で有名な青木雄二先生の人生を描いたマンガなんですが、完全な実話です。
彼は漫画家デビューが45歳で、驚異的なデビューの遅さでした。それまでの人生では、土木作業をやったり、印刷会社を経営したり、非常に多くの経験をしています。その経験がナニワ金融道に生きていますね。
そして、青木雄二先生がめっちゃ詐欺に引っかかるくだりが出てきます。ここがすごい。
既に「ナニワ金融道」を描いて有名だった青木雄二先生は、社会の酸いも甘いも知り尽くしていますし、投資や不動産、金融の知識も抜群です。詐欺に最も引っかかりにくい人種と言っても過言ではない。
そんな青木雄二先生が引っかかったのは、抵当権関係の詐欺でした。
詳細は省きますが、ザ・不動産という感じでとても楽しい話。
ナニワ金融道もめちゃくちゃおもしろいですが、今回は「経営者の失敗談」という趣旨のまとめで、青木雄二先生のこちらの実体験を選びました。
ナニワ金融道ファンもそうでない人もぜひ。
人生で初めて訴訟を起こされた話-訴状は誰の身にも降りかかるということ
僕が書いた記事です。人と人が悲しいほど揉めて訴訟になるまでの様子を詳述しました。
アホなヤツに業務委託したせいでアホな人たちが物件に住み始めてしまい、アホみたいに訴訟が起こったという話です。
話が通じない人とやり取りをして問題を収束させるのは本当に難しい、とたいへん勉強になりました。
前述の青木雄二先生のものとは全く違う規模感ではありますが、まあこれもよくある不動産トラブルですね。
予備校なんてぶっ潰そうぜ
度々僕がおすすめしている名著。起業家系大学生にオススメの本を聞かれたら、僕はいつもこれを答えます。
仲間との離別・絶望的な困窮・人間不信など、学生起業につきもののトラブル全てが起こりまくる本です。
そんなショッキングな体験談を、圧倒的な筆力で描き出す、本当に良い本。
以下、以前僕が書いたレビューから抜粋。
自伝的な本ですが、究極の青春物語であり、あまりにもリアルな起業ストーリーです。
よくある「起業とはこうだ!」みたいなうるさい成功法則の本ではありません。
ただの大学生が、ひょんなことからWebサービスを作ることになり、NPO法人の代表になるまでの、リアルな経過が描かれます。
資金繰りが上手くいかない苦悩、何かが動き出したときの熱狂、もうどうしようもないという挫折、大好きな仲間や友人との離別。それでも前に進むしかない情熱。
あらゆる感情が、凄まじい文章力で描き出されます。
そして圧巻なのは、「学生時代からNPO法人の代表」という華々しい感じの経歴のイメージとは真逆の、圧倒的なまでの負の側面の描写。
あまりにも悲しい離別や、救いのない失恋、絶望的な困窮が、読んでいるこちらの心臓を握りつぶすような強烈さです。
組織をまとめられずに人が離れていく絶望は、似たような経験のある僕の心にも深く突き刺さり、ページをめくるのすら苦しかったです。
本当に名著の中の名著なので、ぜひみんな読んでください。特に学生起業関係の方はぜひ。
僕が書いたレビューの全文はこちら↓
まとめ
以上、経営者の失敗談シリーズをまとめました。
今回まとめるにあたって、かなり記憶を掘り出したり探したりしたのですが、やっぱり失敗談は圧倒的に少ないという印象でした。
新しく失敗談を見つけるたびにこの記事に追記していこうと思いますので、皆さんも「あ、これ良い失敗談だ!」ってものを見つけた場合には、堀元見のTwitterまで教えてください。