最高の青春起業物語「予備校なんてぶっ潰そうぜ」の負の描写がすごすぎる

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こんにちは。非日常クリエイターの堀元です。

 

「人生で一番衝撃を受けた本は?」と聞かれたら、僕はこの本を挙げます。

花房孟胤「予備校なんてぶっ潰そうぜ。」です。

大学三年生のとき、進路に迷っていた僕はこれを読んでハンマーで頭を叩かれたような衝撃を受けました。

堀元
一体この本は何なんだ…!?

と、深夜に読みはじめたのに、眠さを忘れて一気に全部読んでしまいました。

 

自伝的な本ですが、究極の青春物語であり、あまりにもリアルな起業ストーリーです。

よくある「起業とはこうだ!」みたいなうるさい成功法則の本ではありません。

ただの大学生が、ひょんなことからWebサービスを作ることになり、NPO法人の代表になるまでの、リアルな経過が描かれます。

資金繰りが上手くいかない苦悩、何かが動き出したときの熱狂、もうどうしようもないという挫折、大好きな仲間や友人との離別。それでも前に進むしかない情熱

あらゆる感情が、凄まじい文章力で描き出されます。

堀元
もはや一つの文学だ…!

 

そして圧巻なのは、「学生時代からNPO法人の代表」という華々しい感じの経歴のイメージとは真逆の、圧倒的なまでの負の側面の描写

あまりにも悲しい離別や、救いのない失恋、絶望的な困窮が、読んでいるこちらの心臓を握りつぶすような強烈さです。

組織をまとめられずに人が離れていく絶望は、似たような経験のある僕の心にも深く突き刺さり、ページをめくるのすら苦しかったです。

そんな圧倒的なパワーの文章を読んで欲しいので、抜粋しながら書評を書いてみます。

 

物語の、あっさりとした始まり

著者が作ったWebサービス「マナビー」の始まりは、ものすごくあっさりしています。「俺たちの技術で世界を変えよう」的な、アメリカのスタートアップにありがちな劇的なものではありません。

大学の食堂で、大して親しくもない友人と他愛のない会話をしている時に、著者の花房が「大学受験とかを動画で気楽に学べるサービスがあればいい」と話したところから始まります。

しかし、単純な思いつきで言ってみたアイデアに、友人は賛成した。同様に彼もまた、教育に関係するアイデアを持ち合わせており、それなら一緒にやろうとその場で意気込んだ。

彼がそのときどれくらい本気だったのか、今となっては分からない。彼と盛り上がったのはその一度きりで、その後彼とは二度と顔を合わせることはなかったからだ。

 

でも当の僕は、どうにも勢いづいてしまった。後になっていろいろな人に「なぜこの事業を始めたのですか?」と訊かれる度、僕はいつもこの日の興奮した気持ちを思い出す。

しかし、どれだけ考えても、アレだけ興奮した理由を何一つ見いだせなかった。アイデア自体は、どこにでもいる大学生の単純な思いつきだし、今でも時々、もう一度受験をすることになった夢を見て嫌な気持ちになる朝があるぐらい、受験も大嫌いだ。

 

それでも僕がこの日を境に何も考えずに、この未知の事業に向かって猪突猛進するようになったのは、閉塞感があったからではないかと思っている。

このまま専門課程や就活が待ち受ける予定通りの人生を送っていくと、どうしようもない袋小路に追い詰められてしまうんだという閉塞感が、当時の僕の心には充満していた。

(中略)

 

ともあれ、僕はその日を最後に大学には行かなくなった。

 

ちょっと話したところから、突然火がついて動き出してしまう感じ、僕はすごく共感できます。

勢いにまかせて炸裂するかのように動き出す、ウォーターボーイズみたい!

こうして、「大学生の授業を動画に撮って、無料で公開する」というWebサービス「マナビー」が動き始めます。

こんな風に、上手な文章で、極めてリアルな創業が描かれます。

しかし、圧巻なのはここから先。「経済的困窮」とか「別れ」とか「孤独」が、超リアルに描写されます。負の感情がすごすぎる。この衝撃的な文章におののけ!

 

負の感情

報酬の支払い

創業後最初の目標を達成して、花房らは達成パーティをします。

この達成パーティで、とうとう働いてくれる学生への報酬についての話が出てしまいます。

だから、目の前にいる人達の信頼をつなぎ止めたい一心だった。失敗を見せることはできないし、すべての業務は完璧に遂行しなければならないという切迫感もあった。

ひたすら気を遣って、「仲間」という言葉も多用した。それで少しでも本当に「仲間」になってくれるかもしれないと期待したからだ。

けれど、結局、本質的な問題は隠し通せなかった。

(中略)

こうして僕は、皆の前で今まで曖昧にしてきた先生への報酬について宣言することになり、その場で皆と雇用契約書を結ぶことを約束した。

インターネットで調べた契約書の雛形を元にして、2部ずつ刷ってサイン。戸惑う先生もいたが、契約は完了した。

(中略)

授業が増えるごとにチャリンチャリンとお金が逃げて行くようで怖かった。当時のバイトでの稼ぎは、学生をしながらどれだけ一生懸命働いても月10万弱だったから、破綻は目の前に迫っていた。

(中略)

僕はひとりぼっちになったような気がしていた。集まってくれたと思っていた人たちは、仲間と呼べるものではなかったのか。

案の定、僕のやり方が悪かったんだ。3ヶ月経って、100本も授業が集まったけど、誰も見ていない。

サイトを変えても変えても、訪問者数のグラフは横一直線だ。払うべき負債だけが溜まった。あまり思い出したくない冬になった。

マネタイズできていないマナビーを、自分のバイト代で支えようとします。

そのことへの恐れやリアルな苦悩が、文章からひしひしと伝わって来るのです。

 

戻れないプレッシャー

うまくいかないならその段階でやめればよかったが、やめなかった。

もともと分かりやすい理由があったわけではないけれど、ただ、もう後には引き返せないという思いで突き進んでいた。

今まで同じ道を歩んでいたはずの大学の友人たちが、普段通り授業に出席しているのを見ると、胃液がせり上がってくるような気分にもなった。けれど、それ以上に元の袋小路に戻りたくない気持ちの方が強かった。

これも、普通じゃない進路を選択した人はすごく共感できると思います。

僕は楽観的な方ですが、「胃液がせり上がってくるような気分」になったことは何度もあります。

それでも戻れないというプレッシャー。ものすごく心に迫ります。

 

圧倒的な孤独

この本は全編を通じて、「孤独」の描写が半端じゃない。読んでると、つられて僕まで孤独に耐えられなくなりました。

 

そんな孤独を感じる文章をご覧ください!

2011年の冬、僕は周りの友人を汚れた目つきで見ていた。

「誰が本気で、誰が本気じゃないのか」

それぞれにキャリアがあって、夢があって、人生がある。行き先もままならない急ごしらえの泥舟に乗って一緒に起業するなど、簡単に決断できることではない。

それでも、他人に事情などろくに考えられなくなるぐらい、僕の目は濁っていた

これも、どうしても皆の人生の目標が異なってしまう学生団体あるあるですね。責任者だけが必死で消耗していくというパターン。怖い。

 

僕にとって、この段階では、津希乃でなくてはならない理由はなかった。前からある程度知っていて、今回の趣旨に合いそうだから連絡した、ただそれだけのことだった。

それまでにも大勢の人が参加を表明して、そのままいなくなってしまっていたから、僕は人に対して、変に期待をしないように用心深くなっていた。人がいなくなるたびに、いちいち心の柔らかい部分をさらけ出して傷ついていたら、キリがないからだ。

人に対して期待しない、という処世術を身に着けたり、

 

僕自身は一般的な道からは外れつつあって、この先どうなるかも分からない。そんな不安を背負いながら一生懸命考えてやっているのに、失敗すると周りからは責められるんだ。

お前たちは、周りから適当に正論を言いながら、空いている時間にちょっと作業するだけじゃないか。僕の中の汚い衝動が、だんだんと隠しきれなくなっていた時期だと思う

周りへの衝動が表出してきたり。

 

そして極めつけが、初期メンバーで一緒にやってくれていて、著者の精神的な支えだった女の子「千佳」に関する描写。

あまりにも寂しい、余りにも孤独な描写です。ご覧あれ。

 

「千佳」への想い

そのとき、プレッシャーから逃げるようにして、僕は彼女の手を握った。彼女は僕の手を握り返しはしなかったが、あえて振り払おうともしなかった。きっと、何の反応も示さずに穏便にやり過ごすのが一番だと思ったのだろう。

もうその頃には、千佳のことが好きだという僕の気持ちは、抑えることができないものになっていた。

 

活動を始めた次の日から一緒にやっていたが、結局、僕は千佳との間に安定的な信頼関係を築けたことはなかっただろう。

立ち上げて間もない頃、僕は目の前の問題に必死に取り組みながら、共同創業者といえる人を見つけようと躍起になっていた。不安に耐えられず、自分と同じ立場でやっていく人間が欲しかったからだ。

その中で、千佳はニコニコと僕の話を聞いてくれていたから、彼女だけは今後も僕と一緒にやっていくつもりなのではないかと、勝手に期待するようになった。

 

もうその頃には、配慮をしたり口実を作ったりオブラートに包むことも忘れて、千佳という精神安定剤を、ひたすらに要求するようになっていた。

組織づくりでの度重なる失敗と経済的な困窮が追い打ちとなって、僕の心からは理性という防壁が引き剥がされていた。丸裸になった汚い本性は、必死に安定を求めた。

けど僕が求めるほど、千佳は距離を取った。距離が空くほど、さらに僕は求めた。コントロールできなくなった僕の感情は、二次関数の増加曲線が駆け上がるように、その強度を増した

 

「突然で悪いんだけど今から会いに行っていい? 直接言いたいことがあるんだ」

僕が何をしようとしているのかは、彼女もすぐに察したと思う。僕の脳みその理性を司る部分は全会一致で反対を示していたが、もうどうにもならないんだ。

その晩、僕は最も下手くそなやり方で自分の感情をぶちまけて、自ら千佳との関係を破壊した。その日から、彼女はいよいよマナビーから遠ざかっていった。

 

もともと、彼女は誰とでも上手くやれるタイプの人間ではなかったから、人間関係でも問題を抱えがちだったし、それを上手に処理できるタイプでもなかった。

彼女の複雑な内的機構が、誰とでもあけすけなコミュニケーションをすることを拒んでいた。それでも、千佳とマナビーのつながりに最後のとどめを刺したのは、間違いなく僕だった

 

この圧巻の文章力!

全体として素晴らしい文章力で駆け抜ける本ですが、特にこの千佳の描写は素晴らしい。

花房自身が本気で惚れているから生まれる考察と、本気だからこその突き刺さる孤独。

この文章を読んだ時の僕の悲しさは凄まじく、

堀元
アレ、俺が振られたんだっけ?

となるほどです。

 

 

安っぽいストーリーに帰着しない本

そこからも色々な出会いや別れや物語がありますが、ここでは紹介しきれません。

ただし、最初から言っているように、この本は「安っぽい成功談」ではありません。

あまりにもリアルな痛みを伴って進んできたマナビーと著者の関係は、決して安っぽいハッピーエンドで終わりません。

最後に、最終章の文章の一部をご紹介します。

 

あらゆる感情の火だるまになりながら、僕は、マナビーという仕組みの原型を作った。

そして、その感情もろとも、僕がマナビーからいなくなったとき、そこに残った仕組みこそが、本当の組織だと思う。

(中略)

駄々をこねているうちに、僕はレールから外れた。目の前に偶然あった、教育格差という問題をつかみとって、最初はわけも分からず振り回した。

頬杖をついて正論を語るインテリになりたかったはずの僕は、泥の中でもがきながら汚物を撒き散らした。

(中略)

これから先、何を基準にして判断すればいいのか分からない。それでも、ただ自分に正直になって進もう。未来に対する不確実性を受け入れたまま、感情の塊になって進もう。

 

決してハッピーエンドではなく、かといってバッドエンドでもなく、リアルな虚しさと不思議な喜びがある終わりでした。

 

この本の素晴らしいところは、著者の流した血が、汗が、間近に感じられるような極上の文章で、包み隠すことなく負の感情を描ききったところです。

世にありふれた起業ストーリーや成功譚に飽き飽きしている方、この究極の物語を読んでみてはいかがでしょうか?

 

 

世界を面白くしよう!

 

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