今年から新卒ホームレスになり、隅田川に住もうとしている友人がいる。
彼は考え抜いた後に、この進路を選択した。キャリア選びに悩む皆さんの参考になればと思い、彼のことを書いてみようと思う。
彼との出会い
彼と出会ったのは、2016年の9月。浮き輪で島を作るという謎の企画を僕が主催した際に、遊びに来てくれたのが出会いだ。当時の僕は駆け出しのフリーランスで、当時の彼は大学3年生だった。
彼と僕はウマが合った。彼はめちゃくちゃアホだったが、謎の行動力や謎の発想に長けており、よく一緒に将来の野望や、やりたい企画について、夜通し話し合った。
僕と出会った時は大学3年生だった彼は、将来については決めていません。堀元さんみたいに就職しない生き方を選ぶかもしれません、と言っていた。
だから、僕たちが一緒に食事をした時には彼のキャリアや夢についてよく喋っていた。
きっと、僕に限らず彼は色々な人に、そんな相談をしていたのだろう。会うたびに、ふわふわしていた彼のビジョンは、少しずつ形を伴っていった。
一度目の相談
そんな彼から「本格的に進路を決めたので、相談をさせて下さい」とオファーがあったのが、三ヶ月前。昨年の12月のことだ。
彼はそこで、大きなスケッチブックを広げながら、自分のやりたいことについて整理してきた図や文章を見せて、僕に説明した。
僕はその話を聞きながら、微妙だなと思った。
彼の話はこうだ。
- 世界一周をしたいと思います。
- お金を使わないで現地の人達のお世話になりながらどうにか完遂する世界旅行です。
- 各地でご飯を奢ってもらったり、泊めてもらったりしながら人に恩を受けて生きていきます。
- 僕はバーテンダーの側面もあるので創作カクテルが作れます。
- だから、その地域やその家に合わせたバーカクテルを作って、田舎に泊まろうの最後の朝食みたいにそのカクテルをお世話になった人に振舞ったりしていきます
- そしてそんな様子を YouTube にアップして動画コンテンツにしていきます
ありふれている、と思った。世界一周という建て付けに問題があると感じた。人の恩でどうのこうの、というコンセプトも、散々使い古されている。
僕はこの話を受けて、多くのダメ出しをした。気の置けない友人だから、気楽にダメ出しができた。
- そのコンテンツは、はっきり言って微妙な気がする
- まず世界一周というコンテンツの建て付けがありふれすぎている。つまらない。
- 世界一周するなら、よっぽど新しい切り口がないとダメだろ
- バーテンダーがやりたいんだったらバーテンダーを軸にしてもっと強烈なことやればいいじゃん
- 現地の川の水でカクテルを作って飲むとかね
- 各地でお腹壊してたら、めっちゃ面白くない?
- インドに入った途端、お腹こわしまくりでペース遅くなる、とかめっちゃ面白い。
- 「実際に飲んで比較した、ヤバい川ランキング」とか作ったら面白いよね。
これに対する彼の反論はこうだった。
- コンテンツとしては確かにそのほうが面白い
- しかし、今回は自分のやりたいことをやる趣旨だ。
- 普通に人にお世話になりっぱなしで生きてみるっていう挑戦をしてみたいし、世界一周もしてみたい。バーテンダーも活かしたい。
- そんな感じ。やりたいことをやるほうが優先かな
僕はこの発言を、中途半端だと思ったから、噛み付いた。
彼はたっぷり夏休みの宿題を出された中学生みたいな顔になり、その問題を持ち帰ることになった。
その後も2時間ほど話した。「具体的なお金の話も聞きたい」と彼が言ったからだ。
こまかい生活コストの話や、僕が大学を卒業してからなぜ新卒フリーランスでやっていけたか、どういうところから仕事をもらい、どのぐらいの金額の稼ぎで生きていたのか。
たっぷり情報を提供して、たっぷり時間を使った。知らない大学生や興味のない相手には絶対に使わない時間だ。彼のことを有望だと思い、仲の良い友人でもあると思っていたから、僕なりの全力をぶつけた。
彼の結論
そんな初回の相談から3ヶ月。昨日、彼と会った。
彼は卒業後、どうすることにしたのか、僕はFacebookで見てなんとなく知っていた。
彼は、新卒でホームレスになり、隅田川に住む。世界一周はやめたらしい。
僕はこれまた特に面白いとは思わなかった。
だが、数少ない親しい友人の進路決定について、気になることは多い。
彼が何を思い、どういう経緯でその結論に達したのか。もしかしたら一緒に働く要素はないか。
そんなことを知りたくて、久しぶりに彼をご飯に誘った。
時間にルーズな男だ。当日、30分近く遅刻してきた彼に、最初に聞く内容はもちろん例のホームレス生活について。
彼の主張はこうだ。
- 結局僕はものづくりが好きで、ゼロの状態から生活できる環境まで持っていく過程が面白いと思った。
- 暮らしをエンタメにしたい。
- ホームレス小谷さんのようなホームレスではなく、隅田川にブルーシートで家を作るガチのホームレスだ
- そしてホームレス暮らしの一部をユーチューバーっぽい企画に仕立てて動画コンテンツにしてアップロードしていく。
おぼろげに彼のやりたいことを理解して僕はもう少し突っ込んでみた。
堀元からのツッコミ
僕からのツッコミはシンプルだ。
ホームレス暮らしの中の一部をコンテンツとして発信するのであれば、ホームレスの暮らしをすることは極めて非効率ではないか?
という趣旨だ。以下、彼に語ったツッコミ。
***
僕がすごく好きな本で、「僕はお金を使わずに生きることにした」という名著があるんだけど、その本の中に出てくる「ボールペンのインク」のくだりが印象的なんだ。
ボールペンのインクを切らしてしまった著者。しかし1円も使えないから、どうにかインクを作らなければならない。
庭に生えている黒いキノコを持ってきて、乾燥させて、すり鉢で粉末にして、煮詰める。こうしてインクを作ることができた。
彼はその一連の描写の最後に、こんなことを言っている。
僕は確かに、大量消費社会に警鐘を鳴らすためにこの企画を始めた。だが、皆にこの暮らしを真似することはおすすめしない。なぜなら、1円も使わないことはあまりにも効率が悪いことが起きるからだ。
買ってくれば20セントで買えるインクを丸一日かけて作ることはあまりにも効率が悪い。
僕が言いたいことは、やたらめったら全部のものを自分で作ろう、とか、一円も使わないライフスタイルを真似しろ、とかそういうことではない。
頼れるところでは上手に工業化社会の恩恵にあずかりながら、もう少しライフスタイルを見直すことができるんじゃないか?そんなことを伝えたかったんだ。
この本のこのくだりは非常に示唆に富んでいる。君も参考にしたほうがいいと思うよ。
ホームレスっぽいコンテンツ(川原に家を建てる、食べ物を探し歩く。ゴミ捨て場から何かを拾う)を作ることと、実際にホームレスとして暮らす(ちょっとカフェで作業したいときにも入れない)ことは全く別の話だ。
実際にホームレスとしてゼロ円生活をすることは、コンテンツを効率よく生み出すこととは相容れない。
これは自戒の念を込めて言っている。僕は結局コンテンツクリエイターにはなれなかった。僕がやっている”あの村”はコンテンツ発信の部分は失敗続きだ。
君の言っているような、エンタメになりそうな部分というのは本当に少ない。
これは僕が村づくりをしていて痛感するところだ。例えば、「家を建てる」という行動はすごくYoutuber的な動画の材料になるだろう。
ただし、それをやる前には、草を刈り、地面をならして、水平を取って、土台を作る、という作業がある。この作業あまりにも地味で、コンテンツにならない。
君のホームレス生活も同じだ。生活の中でコンテンツになる部分が小さい。収率が低すぎるんだ。
だから、【実際に隅田川でホームレス生活をおくる】というなら、「ホームレスの生活コンテンツ」として、生活全てを発信するべきだ。
そうでないとホームレス生活をおくる意味がない。君の売りはその異常なライフスタイルなんだから、「家を建てる」みたいな企画を単発で出す人ではなく、生活全てを発信して、生活すべてをコンテンツにするべきだ。「僕はお金を使わずに生きることにした」の著者がそうしたように。
自分の進路について語った彼の目は、揺らがず、しっかりしていた。覚悟を決めた人間の顔だった。
男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉がある。まさにそれだ。成長したな、と思った。
昨年の12月に彼の相談を受けたとき、彼は僕のダメ出しに対してタジタジだった。
自分でも、考えがまとまっていなかったのだろう。僕が指摘したことに対して「ああ〜。そういう見方もありますね。ダメか…」と、ことごとく揺らいでいた。
昨日はといえば、彼は確固たる自信を持って、僕のツッコミに対応していた。
彼なりに色々と考えて、しっかり出した結論なのだ。彼の人生に対して何ら責任を負わない僕ごときの言葉で揺らぐことはない。
彼のこれからを、心から応援したい
今回、この記事で取り上げた内容はほんの一部だ。議論は実際にはもっと様々なテーマに及んだ。
彼の考えには共感できる部分もあり、稚拙だなと思う部分もあった。
特に、彼の資本主義に関する考え方は大いに稚拙だと思った。彼は「お金を稼ごうとするとつまらなくなってしまうから、一円も稼がない生き方をしたい」と言った。僕は、これははっきり間違いであると確信している。資本主義のインセンティブは世の中の価値を増大させる方に働いている。面白さについても同様である。
しかし考えてみると、僕も大学生の頃には彼と同じようなことを言っていた。僕は卒業後2年間、「お金」と「遊び」の関係について考え続けてきて、今の認識を手に入れた。彼も同じように考え続けるのだろう。
そして彼が出す結論は、そのままなのかもしれないし、今の僕と同じなのかもしれない。また、全く違うものになるかもしれない。それでいいのだと思う。
繰り返す。彼の考えには共感できる部分もあるが、稚拙だなと思う部分もある。きっと多くの失敗をしながら、彼は生き方も考え方もたくさん修正しなければならないだろう。
しかし、肝心なのは、彼は誰よりも一生懸命考えて、ひたむきに自分の人生と向き合ったということだ。
僕のところに相談に来る多くの大学生なんかに比べて、圧倒的に自分の人生について考えている。だから自信を持って語ることができる。
主体的に人生を考えて、自分なりの生き方を選択したこの友人を、心から応援したい。
彼のFacebookとInstagramのアカウントを貼っておく。一緒に彼を応援したいあなたは、フォローしておくと良いと思う。
翔ちゃん、これからも時々飲みに行こうぜ。そして失敗談とか、気づいたこととか、聞かせてくれよ。どんなヤバい失敗でも、俺は多分笑って聞けるからさ。
あと、死にそうな時は、飯と寝床くらいは提供できるから、連絡くれよ。