差し入れのビーフジャーキー、壊れた腕時計、やたらと小さい声。
「これは伏線…?それとも単に声が小さい人…?」
世界初のイベント「伏線見破りパーティ」は、混乱が混乱を呼ぶ不思議な空間だった。
伏線見破りパーティ
去る4月28日、「伏線見破りパーティ」という企画をやった。
映画やマンガで我々はよく「伏線」を見る。「つじつまの合わない発言」や「変に汚れた服」、「覚えているはずのことを忘れている」などの現象だ。
よくできたフィクションは、この伏線を鮮やかに回収していく。「ああ、前半のアレはそういう意味だったのか」と最後に快刀乱麻を断つ解決を与えられることは、快感ですらある。
ただ、果たして我々は実際に自分の身に伏線が降りかかったとき、正しく伏線を認識できるのだろうか?
それを検証するべく、この度「伏線見破りパーティ」というイベントを開催した。
続々集まってくる怪しい人びと
開場時刻になると、露骨に伏線を身に着けた怪しい人たちが集まってきた。
意味深な眼帯の人……
頭に葉っぱがついている人…
黒いマスクとフードで顔が全く見えない人
など、次から次へと怪しい人がやってきた。最初から伏線丸出しである。
参加者は20人ほどいたのだが、およそ半分の人は「明らかにそれ伏線ですよね?」という格好をしてきていた。
残りの半分は、比較的普通の格好の人たちだった。
ちなみに、普通の人は普通の人同士で固まり、伏線丸出しの人は伏線丸出しの人で固まっていた。ある種のシンパシーがあるのかもしれない。
普通の人の集団。
伏線丸出しの人の集団。
伏線見破りパーティのルール
次々に現れる伏線丸出しの人に盛り上がっている内に、開始時刻になった。
参加者の自己紹介と共にパーティが始まるわけだが、読者諸賢のためにここで改めてルールを説明しよう。
- 伏線見破りパーティは、1人1分の自己紹介+60分の自由交流タイム+最後の答え合わせタイムで構成される
- 参加者は答え合わせまでに、他の参加者の伏線を発見・考察しながら、その人の真相にたどり着くことを狙う。
- ただし、参加者は回答者であると同時に出題者でもある。自分も何らかの設定を用意してこなければならない。他人の伏線を考察しつつ、自分も伏線を張る必要があるのだ。
- 最も多くの伏線を見破った人は最多見破り賞、最も素晴らしい伏線を張ることができれば最優秀伏線賞となる。
以上、ポイントは参加者全員が自作の設定を持ち込んでいることだ。
参加者は「実は双子で、途中で入れ替わっている」のような架空の設定を持ち寄り、そのヒントとなる伏線を用意する。例えば、双子で入れ替わっているとするなら「服が微妙に違う」「今までの会話を急に忘れる」「ほくろの位置が違う」などの伏線が考えられる。
さて、以下では、参加者たちが用意してきた伏線を見ていこう。
疑念渦巻く自己紹介タイム
最初に1人1分の自己紹介タイムを用意したが、開始早々違和感の嵐であった。
例えば、こちらの見るからに怪しい人。
「ゴールデンウィーク初日からこんなに多くの人が来ていてビックリしました…。しかもこんなに皆明るい感じで……なんかこう…ビックリしてます。」
と、周りの様子を探り探り喋り始めた。
気になるのは「ゴールデンウィーク初日」という表現である。本イベントが行われたのは4月28日(日)だ。一般的にはゴールデンウィーク2日目だとされるのが自然なはずだが、彼は勘違いしているのか、あるいは時系列がズレているのか…?
自己紹介の途中で電話がかかってきたりもしていた。「はい、順調です」みたいなこと言ってた。
自己紹介はやはり一番最初の伏線だから、核心から遠い。全体として意味深でさっぱり分からない言動が多かった。
こちらの女性はかなり低いテンションで「今日は人を探しにきました…皆さん協力をよろしくお願いします…」と言っていた。ただならぬ事情がありそうである。
こちらのスーツの男性はテンションこそ普通だが、言ってることは意味不明だった。
「今日はノータイで来ちゃってごめんなさいね。私、普段はもっとフォーマルなんですけど、今日はちょっとネクタイが故障中でして……」
ネクタイが故障するというよく分からない説明。未来人またはパラレルワールドで、ネクタイの捉え方が我々とは異なるのだろうか…?謎が深まる。
そんな、「これはどういうことだ…?」と皆が頭を抱える自己紹介タイムの中、圧倒的に場を和ませたのがこちらの男性。
「今日はみんなよろしくだポン!!仲良くして欲しいんだポン!!」
まごうことなきタヌキである。頭の葉っぱ、語尾、体型とセーターの色、どこを取っても疑う余地のない100%タヌキ。
入場時からみんな薄々「あいつはタヌキだろうな…」と思っていたので、この自己紹介を聞いて会場は爆笑だった。誰もがややこしい伏線を張る中で急に出てくるタヌキは笑ってしまう。緊張と緩和がよく成立していた。
だが、この自己紹介で一番強い印象を残したのはタヌキではなかった。
入場時から異彩を放ち続け、タヌキの自己紹介にみんなが大笑いしてるときも微動だにしない、こいつである。
彼(?)は、自己紹介でみんなが笑っている時やメモを取っているときも、ピクリとも動かなかった。
「伏線とかじゃなくてホントにヤバいヤツなのではないか」と会場のみんなが思い始めた頃、彼に自己紹介の番が回ってきた。
司会の僕は、彼に促した。
「…………」
そして訪れる、圧倒的な静寂。先ほどまでタヌキで盛り上がっていたはずの会場が、無音に包まれる。
聞こえなかったのかなと思い、もう一度アナウンスした。
「………」
「………………」
こっわい。出てきてくれない。
こんな無法地帯がかつてあっただろうか。自己紹介して欲しいと言っているのに、口を開くのはおろかピクリと動くことすらしない。
あと顔がホントに暗くて怖い。一応言っておくが上記の画像は無修正だ。実際に顔がこの暗さなのだ。
あまりにも暗い顔に僕はおののき、実物を前にしているのに思わず「CGで生成されたタイプの人ですか?」と聞きたくなった。
そんな彼の様子を見ていた参加者の様子がこちら。
全員、苦笑いしかできない。
ぜひ覚えておいて欲しい。人間が最も完璧な苦笑いをするタイミングは、「イベントで自己紹介を促されているのにピクリとも動かない人が出現した時」だ。
波乱の自己紹介タイムは、苦笑いと共に終わった。
続いて、自由交流タイムに入る。
伏線がにじみ出る「おいしいパスタ」
自由交流タイムでは、皆が飲み食いしながらの交流になった。
ところで、このパーティは「飲食物は参加者各自による持ち込み」というルールにしてある。
すると当然の帰結として、持ち込み物にも伏線を潜り込ませようとする人が続出した。
例えば、こちらの金髪の女性。
「私、実は……」
「おいしいパスタ作って来たんですよ〜!」
それほどおかしな言動ではないが、このパーティで過敏になっている一同には刺さる違和感。「おいしいパスタ」ってふつう自分で言うか?これは伏線に違いない。
更に、彼女は自作の名刺(このイベントのために作ったと思われる)を持ってきていた。
名刺にはQRコードが印刷されており、スマホで読み取るとTwitterアカウント(@towelbunbun )にたどり着く。ツイート数は少ない。これもこのイベントのために作られたアカウントのようだ。
名刺が提示されると、一同はこのTwitterアカウントと彼女の伏線に夢中になった。
古今東西、問題を解いていくときの基本は、「情報が多いものから解く」だ。情報が少ないものは材料が足りなくて解けなかったり、難易度が高かったりする。
そういう意味で、彼女の謎はかなり解きやすい。「Twitterアカウントとそのツイート」という、非常に大きな情報があるからだ。
そして、アカウントを遡っていくとこの「昔書いていたというブログ」にたどり着く。
ここで材料は揃った感がある。
「おいしいパスタ」「ヤンキーの彼氏」「大富豪」。これだけキーワードが重なればまちがいない。
大親友の彼女の連れ おいしいパスタ作ったお前
家庭的な女がタイプのオレ 一目惚れ
大貧民負けてマジギレ それ見て笑って楽しいねって
湘南乃風「純恋歌」より引用
謎が解ける瞬間である。「湘南乃風のメンバーの彼女」が答えで間違いないだろう。
ついでに、彼女のアカウントIDである「タオルぶんぶん」の意味も分かる。
最初は意味のない文字列かと思ったが、湘南乃風が関係あるとなると話は変わる。これだろう。
差し入れの「おいしいパスタ」から名刺のTwitterアカウントに飛び、一つの伏線が無事に解決するという喜びがそこにはあった。参加者はこうして真相にたどり着いて楽しんでいた。
余談だが、このくだりの間ずっとこの人がカッターナイフをカチャカチャやっていた。
怖かったので誰も触れなかった。
っていうかこの人、最初から一言も喋ってないし一歩も動いてない。何しにきたんだ。
不穏すぎる「ビーフジャーキー」
もう一つ印象的だった差し入れが、「ビーフジャーキー」である。
左の彼が色んな人に「ぜひ食べてください」と振る舞っていた。
しかし何が怖いって……
ジップロック的な袋で持ってきているのである。
そのあまりの不穏さに、参加者からも
という声が漏れていた。
そして、そう言いながらもみんな実際に食べていた。
「絶対人肉じゃん」と言いながらパクパク食べる様子が面白い。人肉だと思うなら食うな。このイベントじゃないと絶対見られない光景だ。
ちなみに、このビーフジャーキーは実際に人肉だったのだが、この真相についてはまた後ほど。
後で効いてくるので、ビーフジャーキーを差し入れしている彼の耳にあるイヤリングを覚えておいて欲しい。イヤリングをはじめ、彼は女性もののアクセサリーをたくさんつけていた。
とうとう出る「死人」
自由交流タイムが始まって半分の30分が経過した。「さあ残り30分だ」というところで、事件が起こった。
人が倒れたのである。
何事かと思って近づいてみると、
思い切り血を吐いていた。
皆がそれを見てギャーギャー言い始めたタイミングで、一人の男性が現れた。
「みんな下がって!僕が見るよ!!」
彼は先ほど、自己紹介で「ネクタイが故障中」とワケの分からないことを言っていた人である。
だがここで、彼の正体は一気に判明することになった。
彼は死体を調べる過程で、こう言っていた。
- まったくもう、何の因果だ…!行く先々で事件が起こるよ。
- (床に散らばっている粉を舐めて)ペロッ、これは麻薬…!!
- (死体を見ながら)あれれ〜?この人おかしいよ??
死体よりも圧倒的におかしいオッサンの幼児退行ボイスを聞いて、あのキャラクターを想像しない人はいないだろう。
ここに至れば、「ネクタイが故障中」の意味も分かる。「あ、ネクタイって蝶ネクタイ(型変声機)のことか!」という、伏線が回収される感じが気持ちいい。
この時の彼の動きを見ていた人たちは皆「コナン」を悟り、ニヤリとしていた。
死体に気を取られている間に、彼は見事にやってのけた
派手に血を吐く者が出現すれば、誰もがそちらに注目してしまう。
そんな人間心理の裏をついて、ひっそりと一件の「イタズラ」が行われていた。
バンクシーのネズミの絵である。
そして、この場所はついさっきまで彼がいたところだ。
彼はどこに行った?そう思いながら会場を見回してみる。
どこにもいない。いるのはただ、絵の存在に驚き詰め寄る群衆だけ。
衝撃である。なんと彼は、皆が死体に気を取られている間に落書きを残し、そのまま消えていったのだ。
僕はこの一連の騒動を見て思った。「確かにすごいけど、これどうやって帰ってくるんだろう?」と。
本当のバンクシーならもう一回現場に出てくることはないだろうし、戻ってきてしまうとバンクシーっぽくなくなる。何か戻ってくるための設定を考えているのだろうか…?
結果から言えば、その心配は杞憂だった。彼はそのまま戻ってこなかった。
まさかの答え合わせ放棄である。伏線見破りパーティなのに伏線を見破る努力を全くせず、それどころか他人の答えを聞かずに途中で帰るという荒業を見せた。
この荒業は本当にすごい。彼の根底にあるのは自由奔放で型破りな、ストリートアートの精神だ。ルール違反ではあるがルール違反であること自体が作品になっているという、まさにバンクシーが好んで使う表現手法ではないか。
彼はバンクシーになったのだ。ネズミの絵を貼ったとかそんな表面的なバンクシーの模倣の話ではない。「最後までいることを前提としたイベントで途中で帰る」という、体制に中指を立て人びとの裏をかく脅威の表現を行った。胸がスッとするような、価値観をひっくり返されるような表現。これこそがバンクシーの仕事だ。彼は、バンクシーになったのだ。
僕はそんな風に、彼を絶賛した。イベント後の打ち上げでも「彼はバンクシーになったのだ」と褒めた。
後日、彼と連絡を取る機会があったので「あの退場は見事でしたね。バンクシーの精神を表現したんでしょう?」と言ったら「あ、いや、バイトがあったからです」と言っていた。彼は全然バンクシーじゃなかった。褒めて損した。何が「体制に中指を立て」だ。バリバリ体制やんけ。
恥ずかしい。「彼は、バンクシーになったのだ」とか自分に酔いながら評論していたのが恥ずかしい。
見るものが多すぎる「残り30分」
ここまで印象的なものを抜き出して説明してきたが、「死体」「コナン」「バンクシー」以外にも、この時間帯に色んなことが一斉に起こっていた。
室内で傘をさし始めるヤツがいたり……
「みんな!死にたくなければコーラを飲め!!」と言って回る男性がいたり……
自己紹介で「人探しをしています」と言っていた女性の持っているメモ帳が明らかに精神的に異常だったりし始めた。
「残り30分」になった時点でこれらの事件が一斉に起こったので、みんな「見るものが多すぎて何を見ていいのか分からない!」となっていた。大英博物館を見に行った人の感想みたいだ。
恐らく、「核心に迫る伏線は残り30分になってから出そう」と皆が考えてしまったせいだと思う。本来であれば1つ1つ処理していくべき重大な事件が一斉に起こってしまい、会場は大英博物館になってしまった。
伏線見破りパーティは残り30分時点で大英博物館になる。これから参加する予定のある読者諸賢はぜひ覚えておいて欲しい。
そして訪れるカタルシス
さて、そんな様々な事件が終わり、いよいよ「答え合わせ」が始まった。
トップバッターで答え合わせをしてくれたのはこの人。
彼がやっていた伏線は以下。
- 日付をずっと一日ズレで考えている(「ゴールデンウィーク初日」など)
- 時々「あれ?何かおかしいぞ」と周りを見渡す。「よく分からないけど周りに合わせておこう」という雰囲気。
- 仕事についての話で「ご要望とあれば誰でもやりますよ」などと発言。
- 突然「死にたくなければコーラを飲め!」と言い出す。
- 途中で帽子がなくなっていたり、微妙に格好が変化している
- やたら厳重に守られた「指定期日まで開かないハコ」を持ち歩いている。
色んな要素がごちゃごちゃと組み合わさっていた彼であるが、解答はこうだった。
- 時間移動しながら、死にたい人のために毒を提供する「時間移動殺し屋」である
- 翌日に「自殺志願者が集まるパーティ」があり、そちらに行く予定だったのに一日間違ってここに来た
- 時々話が食い違ったり、「みんなが楽しそう」なことに驚いたりしていたのはそのため。
- 「ご要望とあれば誰でもやりますよ」は殺しの話。
- 途中で服装が変化しているのは、「勘違いが判明して止めに来た未来の自分」と途中で入れ替わったから。
- 指定の時間になればハコが自動的に開いて毒薬が散布されてしまうため、「止めに来た未来の自分」が皆の救命に必死になった。
- コーラには毒薬の効果を薄める成分が含まれるため、服装が変わった(未来の自分と入れ替わった)途端に「死にたくなければコーラを飲め!」と言い始めた。
- 結果としてハコは開かなかったので皆無事だった(一日勘違いしたのはハコの設定後であり、ハコの設定自体は正しい日程になっていたから)
なんと、「時間移動」「殺し屋」「入れ替わり」という単体でも成立しそうな3要素の全部盛りである。
これには参加者たちも参った。
この設定を聞いた参加者たちの顔はこれである。
…
どうだろう、この見事なほうけ顔。
そして、頼みの綱である名探偵コナンですらも……。
名探偵もサジを投げるほどの難易度。3要素てんこ盛りはそのくらい難しい。正解者はほとんどいなかった。
というか、このコナンは実際にはただのオッサンなので、そりゃ正解できないなという感じがする。「頼みの綱」とか言っちゃってごめん。
「二人セット」という解答
会場をギョッと言わせていたのはこちらの男性。彼は人肉だと思われるビーフジャーキーを差し入れしていたのだが、真相はそれだけではなかった。脅威の真相が彼の口から語られる。
「僕の設定は女性専門の殺人鬼です。殺した女性の所持品を身につけるので、女もののアクセサリーをたくさんしていました。多くの人が予想した”ビーフジャーキーが人肉である”は正解ですが、それだけでは不十分です。実は、”誰の人肉なのか”まで当てることができます」
これには会場もざわつく。彼の言動に、”誰の人肉なのか”に歩み寄れそうな伏線はなかった気がするが……。
続いて、彼が言ったのは驚きの発言だった。
「そのキーポイントを握っていたのは、彼女です」
そして、立ち上がったのが彼女。
自己紹介で「人を探しています」と言い、精神に異常をきたしている絵を描いていた彼女だ。
彼女の設定はこう。
- 最愛の姉を殺人鬼に殺された。それ以来精神を病みがち。
- 殺人鬼からの手紙が来て、「僕はこのイベントに参加しているから見つけてみろよ」と言われた。
- 姉を殺した犯人が憎い。なんとしても発見したい。
適切な条件を満たせば(殺人鬼でないと彼女に信用されれば)その手紙も見せてくれたらしい。
つまり、真相は「姉を殺された妹が、殺人鬼を探している。その殺人鬼はビーフジャーキーを差し入れた彼」であった。
2人セットで考えて初めて完璧に解ける伏線という熱い仕掛けであった。
「ビーフジャーキーは人肉、彼は女性を殺す殺人鬼」または「彼女は姉を殺されていて犯人を探している」という片方を解いている人はたくさんいたが、両者を結びつけてちゃんと結論にたどり着いたのは一人だけだった。しかし、冷静に両者を結びつけると回答できる。よくできた伏線だ。
最も気合が入っていた伏線「腕時計の自作」
二人組の伏線に一同が大いに湧いた。最優秀伏線は決まったかと思われたその直後、圧倒的にシンプルで圧倒的にこだわった伏線が出てきて、皆の度肝を抜くことになった。
その伏線の仕掛け人は、彼だ。
彼の伏線の何がすごいって、「言われてみれば明らかで、ずっと提示され続けている」のに、「誰一人その真相にたどり着けない」ところにある。
例えば、序盤から彼は「腕時計が壊れてしまい、時刻が分からない」と説明していた。
気になるアイテムなので、ほとんど全員がこの腕時計を確認してはいるはずである。
にも関わらず、ほとんどの人がこの時計の本当の意味には気づかなかった。
皆さんは分かるだろうか?ちょっと考えてから下にスクロールして頂きたい。
…
……
………
お分かりだろうか?
会場のほとんどの人は「止まった時刻が16時(イベント終了時刻)である」ことや「短針の角度が不自然(短針は妙に3時に近いところを指している)」ということに注目して、もっと圧倒的な異常性を見落としていた。
この時計の異常性、それは、文字盤のローマ数字が左右逆であることだ。
言われてみればこんなに明らかな仕掛けはない。圧倒的な異常だ。なぜほとんどの人が気づかなかったのか不思議なくらいだ。
この理由について、考えられる要因は2つだ。
1つ目は「我々が普段テキトウにローマ数字を読んでいる」こと。時計の文字盤に書かれている文字なんて確認するまでもないから、テキトウにしか見ない。ローマ数字の左右なんてじっくり考えたりしない。
2つ目は「腕時計そのものを疑うことを放棄していた」ことだろう。腕時計に「仕掛けが足されている」ことは考えたとしても、「腕時計そのものが自作である」ことは考えなかった。
孫子はかつて「兵は詭道なり」と言った。戦争とはしょせん騙し合いにすぎないから、相手の盲点を突け、と。彼はまさにこの孫氏の兵法を体現している。
「このイベントのためにわざわざ腕時計を自作してくる人間などいない」という全員の盲点を狙った見事な伏線であった。
また、彼の持っていた異常アイテムはそれだけではない。彼がずっと持ち歩いていた手帳もおかしい。
バーコードの数字が反転しているのだ。こちらはよく見慣れたアラビア数字。
時計の文字盤同様、このバーコードも彼は堂々と見せていた。にも関わらずほとんどの人が見落としていた。「バーコードの数字を注視する」という習慣がないからだろう。
バーコードも文字盤も同じ。彼が張った伏線はすべて「そこには仕掛けはないはず」という盲点をついている。見事というほかにない。
結局、彼の時計と手帳に気がついたのは参加者の中でただ1人、数学の先生(伏線ではなくマジの職業)だけだった。職業柄数字に気を配る人は気づくし、そうでない人は気づかないものなのだろう。
ということで、彼の設定は「鏡の世界から出てきた人」であった。
そして、僕が更に舌を巻いたのは、彼の異常なこだわりである。
装備品は全て左右が反転していなければならないので、Tシャツからパンツに至るまで完璧に左右が存在しないものを着用していた。
靴に関しては、裏面にサイズが記されていたので削り落としてきたらしい。(本来は反転していなければならないので)
設定に齟齬を出さないために、誰も見ないであろう靴の裏さえも加工してくる。凄まじいこだわりだ。
その異常な情熱に、会場は引いていた。
周りを引かせるほどの情熱を発揮できるというのは本当にすごい。だから彼に「最優秀伏線賞」をあげることにした。
あと、「最多見破り賞」に関しては「8人の伏線を見破った」という猛者が2名いたので、彼らの同時受賞となった。
賞品として、「モダンタイムス」の上下巻をバラバラにあげた。ホントは1人にセットであげようと思っていたのだが、2人同時受賞だからバラバラになってしまった。
まあ、伏線を見破ることに長けた2人ならば片方だけ読んでもきっと真相にたどり着けるだろう。
まとめ
以上、伏線見破りパーティは大盛り上がりの上で幕を閉じた。今回分かったことはこちら。
- 自己紹介で突然出てくるタヌキはなごむ
- ジップロックに入ってるビーフジャーキーは絶対人肉
- バンクシーは途中で帰る(バイトがあるから)
- 残り30分時点で大英博物館になる。
- 靴の裏を削り落とすと引かれる
余談
イベント後、バンクシーがしていたツイートがこれだ。
伏線みやぶりパーティー、終始うつむいていたので何が起きてたのか何も知らない
— ♨シラオサ♨ (@shiraishiosamu) April 28, 2019
ずっとうつむいているのはさぞ退屈だったと思う。彼にもエールを送りたい。
次回予告
次回は、「話題メニュー飲み会」というイベントをやる。「自分が提供できる面白い話を事前にメニュー化してきて、相手に注文してもらう」というもの。
これまた込み入ったイベントだが、詳細は以下のツイートを参照されたい。
「話題メニュー飲み会【いつまで天気の話してるの?】」というイベントを、6月9日夜にやります。
初対面の人との会話って大抵つまらないじゃないですか。天気の話とか住んでる場所の話とか。あれクソつまらなくない?
だから、【初対面でも面白い話しようぜ!】というイベントです。
参加はリプ欄。 pic.twitter.com/0MIGMxVVqd
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) May 3, 2019
皆さんのご参加をお待ちしております。
Facebookイベントページはこちら→「話題メニュー飲み会」イベントページ
参加フォームはこちら→「話題メニュー飲み会」参加フォーム
また、僕はこういった特殊なイベントを月に一回ペースで行っている。
今後の情報を入手したい方は、堀元見Twitterをぜひフォローしておいて欲しい。
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