天才は、平均的な知性よりはむしろ狂気に近い。
ショーペンハウアーの言葉だ。僕はこの言葉が好きで、よく引用する。真実をとらえていると思う。
突出した人間は、狂っていることが多い。むしろ、狂っているからこそ常人の領域を超越できるのかもしれない。
そして、企画においても同様だ。
突出した企画は、狂っていることが多い。
ある種の狂気によって生み出された企画は、神性とも呼べるレベルの面白さが宿る。
だから、僕が企画屋として嫉妬するほど面白いものはほとんど狂気の企画である。
今日は、そんな狂気の企画を10個ほど紹介する。最後までお付き合いいただければ幸いだ。
内村さまぁ〜ずの「人間ドック」
現在はAmazonプライムビデオで配信中の「内村さまぁ〜ず」という番組がある。僕は高校生の頃からこの番組が好きで好きで仕方ない。その理由の一つが
という衝撃の回がたくさんあることだ。
そして、そんな内村さまぁ〜ずで、毎年の年末恒例となっているのが、「人間ドックで体の不安を解消したい男たち」という企画である。
一般に、エンタメにしてはいけない(とされる)領域はいくつかあるが、人の病気あるいは人の死というのはその最たるものだと思う。
内村さまぁ〜ずは、いとも簡単にその領域を踏み越えている。
人間ドックの検査で明らかになる病気を、面白おかしくイジるという企画である。一歩間違えると、病人からのクレームをもらいかねない。
例えば、「病名神経衰弱」だ。
表には病名、裏側には診断された芸人の名前が書かれており、見事に自分の病名同士でペアを作れれば1ポイント、というゲーム。
ゲーム中に自分たちが胃炎・食道炎であることを知ったさまぁ〜ずの二人は、このゲーム中にこんな会話をする。
三村「そうかあ。オレと大竹は胃炎・食道炎なんだな」
大竹「胃炎・食道炎のコンビですね」
三村「どうも、胃炎です!」
大竹「食道炎です!」
三村「笑えねえよそんなコンビの漫才!」
ブラックジョーク的なコンテンツは、面白い。主な要因は、以下の2点にあると思う。
- イジってはいけないとされる領域に踏み込むカタルシスがある
- 倫理観によってコンテンツにされてこなかったため、新鮮である
この2点の面白さを存分に引き出したまま、番組は更に深い領域に踏み込んでいく。
視聴者は「水着美女病名騎馬戦」という、今後の人生で絶対にもう見ない文字列を目の当たりにすることになる。
バラエティ番組によくある「水着美女騎馬戦」と「病気」を組み合わせるという狂気の発想である。
美女二名が、相手のハチマキを奪う。
自分のチームの美女が無事にハチマキを奪えれば、ハチマキの裏に書かれた自分の病名が分かるという仕組みのゲーム。「病名の開示」を賞品にするという狂気である。
こんなポップな戦いをして、ハチマキを奪った結果、告げられる病名がまた衝撃である。
「肺がん」である。
まさかシャレにならないものをネタにしないだろう、と油断していた視聴者の度肝を抜くカタルシス。
これだけ多くのカタルシスがあるバラエティ番組の1時間を、僕は他に知らない。
ところで、美女騎馬戦というエロスと、肺がん告知というシリアスの組み合わせ、うがった見方をするなら、「生と死」の対比なのかもしれない。
今回、この記事を書くにあたって動画を見直していたのだが、この動画は特性上、死を強く意識させられる。しかしそれでいて、美女を登場させたり、セックスについての言及が多かったり、全編を通して性についての表現も多分に現れる。
これは、フロイトの言うエロスとタナトスの対比、ひいては、生と死の対比である。
本企画では、あくまでバラエティ番組という体裁を取りながら、アート表現を完成させたと言えるかもしれない。アートとして、計算の上で「美女×肺がん」やその他の表現をやったのだとしたら、この企画者はもはやアーティストの域にある。
以上、内村さまぁ〜ず随一の狂った企画を紹介した。
今回は2016年のものを取り上げたが、人間ドック回はどれも面白いのでオススメだ。
毎年恒例で出てくる病名やコントっぽい流れもあるので、初回から見ていくのをオススメしたい。
視聴はこちらからどうぞ。Amazonプライム会員は無料で見られます。→内村さまぁ〜ず
オナホのあほすたさん
「あほすたさん」という女性漫画家がいる。Twitterアカウントは4万人弱のフォロワーがおり、マンガをツイートして時々バズっている。
今年の8月に「PTAがやめられない」というマンガでバズっていた。
PTAがやめられない pic.twitter.com/6zYgO9EvHq
— あほすたさん8/30単行本発売 (@AFOSTAR02) August 21, 2018
だが、今回取り上げたいのはマンガの話ではない。
この人、漫画家なのにオナホ化しているのである。
本人の自己申告によって女性器を完全再現したそうだ。なんなんだ、そのこだわり。
「新人漫画家の仕事ってたいへん」という小ボケも忘れない。この仕事が来る新人漫画家はあんただけだ。
というか、この企画を出した人間は何を食って育ったのだろう。
僕は割と柔軟な発想を持っているという自負があるのだけど、あと8回くらい人生を繰り返したとしてもこの企画は出せる気がしない。
どういう生い立ちで育ったら、女性漫画家をオナホ化しようと思い立つのだろうか。
企画を出した人間の素性への興味はとどまることがないのだけれど、ともあれ、あほすたさんのTwitterは悪ふざけ企画が溢れており動きに目を離せない、オススメである。
デジタル減塩
これは発想の勝利という感じだ。面白い。
百聞は一見にしかずということで、ぜひWebサイトを見てみて欲しい。
コンセプトとしては、「面白すぎるWebサービスを、面白さ控えめにする」というもの。今までになかった発想だと思う。
以下、Webサイトより趣旨を引用。
デジタル減塩とは、面白すぎるサービスを「おもしろさ控えめ」にして、過度な中毒性情報の摂取を抑える考え方です。
我々には摂取する食べ物を選ぶ自由があります。摂取する情報についても同じです。
塩辛すぎるお味噌汁が体に悪いように、面白すぎる情報は頭に悪いのです。
では実際にプロダクトとして何があるのかというと、chromeの拡張機能である。
Youtubeのおすすめ動画機能や、Wikipediaのリンクを無効化してくれる。
「面白いものを、面白くなくする」という発想が素晴らしい。ごくシンプルでありながら、今まで誰もやらなかった領域である。
普通の企画屋は「面白くする」ことを常に考えてしまうから、ここにはたどり着かない。狂った人間だけが出せる企画だ。
世間に需要がないことは明らかだが、社会問題に切り込んでいてホントウに面白い。
風刺コンテンツという表現がぴったりかもしれない。
ちなみに、こちらは僕が最も好きな経営者であり、かつて一度取材している花房孟胤の企画だ。
このプロダクトは彼らしい、と思う。以前3時間たっぷり取材した時の彼の印象は、反骨精神に溢れる男、レジスタンスという感じだった。
悪ふざけをしながら、結果として社会に対して問題提起をする。良いプロダクトであり、良い企画だと思う。
5%の確率で性器を露出するドラ◯◯んbot
普段は普通にひみつ道具を出しているが、5%の確率で「チンポ(ボロン」とつぶやくというTwitterのbotである。
何回も同じことを言うようで恐縮なのだけれど、何を食って育ったらこれを思いつくのか分からない。
僕は人生の中で1ミリたりとも「そうだ!5%の確率で性器を露出するドラえもんbotやろう!」って思ったことはないし、これから先も思わない自信がある。
botをやろうと思いついたヤツはよほど頭がおかしいか、露出狂のドラえもんファンかどちらかだろう。
ちなみに、こんな考察記事も存在する。
この記事では、「実際にこのbotが性器を露出している確率を算出する」という試みをやっており、結論として、
確率を計算するとこうなった。
4.311%
5%じゃなかった。試行回数が4000overとかなり多いことを考えても、だいぶ少ない。
また、特定の期間だけをランダムに抜き出しても4.25%~4.39%を超えることはほとんどなく、「5%の確率で性器を露出するドラえもん」は、ややサバを読んだ名称、正確には「4%強の確率で性器を露出するドラえもん」が正しいのだろう。
と述べられている。
「5%の確率で性器を露出するドラえもん」は実は「4%強の確率で性器を露出するドラえもん」だったというカタルシスがある。
実はbot製作者はこのカタルシスを与えるためにあえて5%から少しズラしているのかもしれないし、単なる設定ミスなのかもしれない。
いずれにせよ、こんなカタルシスを与えてくれたり、「ひたすらチンポが出るのを待ち続けるTwitter民」を生み出したり、このbotがインターネットに与えた驚きは大きい。
企画屋として、このくらい狂気にまみれたものを生み出したいものである。
金のコイキング1匹でポケモン攻略(6年がかり)
ゲームの実況動画シリーズである。
こちらの企画は、発想が狂っているというよりも、かかっている手間と時間が狂っている。
色違い(金色)のコイキング1匹だけを使って、ポケモンをクリアするという縛りプレイだ。
レベル上げなども禁止なので、苦手なタイプを使ってくるジムリーダーとの戦いなどは全て圧倒的に苦しい戦いを強いられる。
そして、6回連続で急所に当てないと勝てないなどの乱数との戦いになり、実況主は同じ作業を何度もひたすら繰り返すことになる。
結果、実況プレイ1話分を撮影するのに一ヶ月かかるという異常な手間を投入したコンテンツができあがる。これこそまさに実況主の狂気によって成立したコンテンツであろう。
そもそも、第一話は「金のコイキングを釣る」という過程だけで30分近く使用している。
こちらがその第一話だ。
色違いが出なさすぎて、使っているカウンターが途中でオーバーフローするという事件も発生する。
大学生(当時)の実況主いわく、
夏休み、毎日10時間以上もコイキングを釣り続けているのに釣れない……。
とのことだ。
もちろん労力は自己申告なのでどこまで本当なのか分からないが、おそらく全部ガチなのだと思う。
動画は毎回、全部ガチであると思わされるだけの迫力がある。
第一話で金のコイキングが釣れたときもありえないほど興奮しており、「あ、本当に何万匹と釣り上げた後なんだな」と信じさせられてしまう。
第二話からも地獄で、「たいあたり」を覚えるまでは「はねる」しかわざがないので、基本的には常に「わるあがき」だけで戦うことになる。
しかし、わるあがきを使えるようになるまでのPP消費の段階で死ぬということを何度も何度も繰り返すことになる。有り金を全て使って「きずぐすり」を購入して、それを全部使い切りながら試行錯誤して、どうにか戦いを終える。
したがって、第二話は、最初のトレーナーの「ジグザグマ」を倒すというだけの内容になる。ここまで進行の遅い実況プレイが、かつてあっただろうか。
ジグザグマを倒した実況主は、感動のあまり「全クリした!」と言ってしまう。ゲームの最初の一匹に勝っただけなのにも関わらず、である。
この実況主の喜びようが、「あ、ガチでやってるんだな」という感動を与える。狂気に近い努力は、感動を生むのだ。
このペースでゲームがずっと進むので、一ヶ月に一回しか更新されないのはザラである。
この遅々としたペースでわずかずつゲームは進んでいたものの、2013年に第十話が投稿されたのを境に、更新は3年間パッタリと途切れることになった。
ここで、誰もが考える。
と。
実況主が大学を卒業して就職したタイミングだったという背景もあり、もう終わりだなと誰もが思った。
しかし、3年経過した2016年に、投稿が再開される。
そのときの実況主のコメントは、
社畜してたので実況はできなかったよ。でも、この実況シリーズを忘れることはできなかった。
だから、仕事やめた
と書かれている。
まさしく、彼は人生をかけてコンテンツを生み出していると言っていいだろう。
結果として、途中に3年間の中断をはさみながらも断念することはなく、実に6年の月日をかけて金のコイキングだけでゲームをクリアすることになった。
6年、たった一つのゲームの実況シリーズをやり続ける。仕事をやめてまで、ひたすら乱数と戦い続ける。僕には絶対にできない狂気のコンテンツに、羨望の目を向けざるを得ない。
これこそ、圧倒的な労力と時間投入が可能にした、狂気のコンテンツである。
僕はこのシリーズを完結させた実況主のレオモン氏に心からの敬意を払いたい。
もう一回第一話へのリンクを貼っておくので、ぜひ皆さんに見て欲しい。
まとめ
以上、狂気の企画を5つ紹介した。
どれも本当に面白く、企画屋として嫉妬する類のものである。
僕もこのくらいのものを出し続けたい。
良かった企画まとめを作ると改めて、企画屋として身が引き締まる思いになる。
これからも、定期的に良かった企画はまとめていきたいと思う。
僕がやった中で選ぶとこれ
ちなみに、僕がやった中で一番狂気を感じる企画は何かなと探してみた。
これだった。
「僕と面識のない人だけを集めて誕生日を開催する」という趣旨のあそび。
開場前に他人だけが集まってきて発生した地獄のような気まずい空気を、僕は一生涯忘れることはないだろう。