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むだそくんについて

精神安定剤としてのオンラインサロンの話。あるいは普遍的なサービス業の話

仕事論

「オンラインサロン」という言葉が定着して久しい。

そして、その悪評も。

 

 

 

 

僕は、ちょうど「オンラインサロンが熱い!」と言われた時期(2015年〜2016年あたり)に進路を決定し、大学を卒業した、いうなれば「オンラインサロン直撃世代」である。

だから、いくつかのオンラインサロンに入ったり、オンラインサロンを運営する友人の話を聞いたり、オンラインサロンを外から観察したり……といったことを繰り返してきた。

 

そういった経験を通して得た結論は、こうだ。

 

オンラインサロンは、精神安定剤としての効能がある

しかし、それだけであり、何かを生み出す場所ではない

 

以下、僕が経験してきたオンラインサロンに関する事象の数々を通して、オンラインサロンの抱える問題点や真実を浮き彫りにしていきたいと思う。

 

そもそも「オンラインサロン」とは何か

オンラインサロンという言葉の定義はあまりしっかりしていない。

だが、一般には「月額会員制のクローズドコミュニティ。オンライン/オフラインを通した交流を盛んに行う」くらいの認識で良いだろう。

ただし、この定義は本質(とされているもの)を捉えてはいない。

 

なぜ、「オンラインサロン」という概念が強烈にもてはやされたのか。

 

それを理解するには、オンラインサロンが流行り始める頃に、枕詞のようにくっついていた言葉を見ると分かりやすい。

よく見る説明を、以下にまとめてみた。

  • オンラインサロンは、メルマガのようなものと違って、「交流」がメインだ。
  • 会員は皆、「主体的な参加」が求められる。
  • 運営者と会員の垣根は存在しない。
  • 会員たちは自ら動くことによって、サロンの中でやりたいプロジェクトを実現していく。
  • 面白い仲間が集まっており、プロジェクト実現の可能性が高まる。
  • オンラインサロンは、従来の「労働」と逆のものである。給与を受け取るのではなく、お金を払いながら参加する。
  • したがって、いやいや働く人は誰もいない。皆が楽しんでいるから、結果としてアウトプットも増える。
  • これこそが21世紀の労働だ!!みんなオンラインサロンをやろう!!

 

オンラインサロンという概念が流行りはじめたのは、大体こういう説明によるものだったと思う。

この手の説明の火付け役は多分、「ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる!」という本だろう。2014年発行の本であり、ホリエモンのサロン開始時期と一致している。

 

本の中では「これからは金をもらって労働するのではなく、金を払って労働する時代だ」と書かれていた。このキャッチーな主張は、世の人たちをうならせた。

ご多分に漏れず、大学生の僕も2014年にこの本を読み、思い切り影響を受けた。

後に僕もこの思想をベースに「月額会員制村作りサービスというものを始めて、大失敗する」ことになる

 

さて、以上で見たように、「オンラインサロン」という新概念が流行った理由は明らかだ。

聞こえのいい言葉を使って説明できる、いかにも次世代型事業という感じのするものだったからである。

 

全く新しい事業形態である」とか「これこそが21世紀の労働だ!」とか言われると、意志薄弱な人間は「なるほどそういうものか」と思ってしまう(僕もそう思った)

 

事例①「堀江貴文イノベーション大学」の場合

画像はDMMサロン(https://lounge.dmm.com/detail/87/ )より引用

前述の通り、オンラインサロンという言葉を一躍有名にしたのは、ホリエモンこと堀江貴文氏であるように思う。

彼のサロン「堀江貴文イノベーション大学」(以下、HIU)は2014年に始まっている。

そして、月額1万800円という高額な会費にも関わらず、何千人という規模で会員を集めている。

 

このこと自体はホントウにすごいことであると思うし、堀江貴文氏の実力や卓越したものの見方、行動力によって多くのファンがついていることの証明であると思う。

僕は堀江貴文氏のことはたいへんにすごい人だなと思い尊敬しているし、いつも発信を面白く見ている。

だが、「HIUに入っている会員たち」は何も面白くない、能力のない人たちであった

 

これこそがオンラインサロンで頻発する問題「中心人物はすごいが、サロン会員は無能」現象である。

 

僕が在籍した2ヶ月(2016年7月〜8月)

僕はHIUに、2016年7月〜8月の二ヶ月間だけ、在籍していた。

これは、当時僕のことを応援してくれていたパトロンが、「HIUはホントに面白いから入ってみなよ!二ヶ月分の会費あげるから!」と、会費をくれたことに起因する。

この期間に、三回ほどHIUのイベントに出た。60人くらいのHIU会員の話を聞いた。

そして、覗けるスレッドも色々と覗いてみた。

 

そういった経験を通して僕が感じたのは、「無の人々だなあ」ということであった。

HIUにはさぞ面白い人が集まっているのかと思ったら、ごく普通の人たちである。

1割くらい面白い人もいたけど、それはHIUだからという話ではなさそうだ。渋谷を歩いている人を無作為抽出したら1割くらい面白い人を引けるだろうし。

 

そして何より驚いたのは、

HIUってどうなんですか?

と聞いた時の、人々の反応である。

 

めっちゃ楽しいよ〜!イベントいっぱいあるし!僕は毎週HIUのイベント出てるよ!

と、返ってきた。一度や二度ではない。聞く度にほとんどの人がそう答えていた。

 

もう一度確認しよう。「オンラインサロン」というものが流行った理由、いつも枕詞のようについていた説明は

 

会員が主体性を持って行動し、プロジェクトを実現していける

 

という内容であった。

 

一方、HIU参加者は、「イベントにいっぱい参加できて楽しい」と言っていた。

もう一度言おう、オンラインサロンで発生しがちな問題は

 

無能な人が集まってきて、主体的には何もやらない(できない)

 

である。

この問題をひしひし痛感しつつ、僕は2ヶ月でHIUを辞めた。

 

のちに、クラウドファンディング勉強会の講師をやった

それから半年ほどして、「クラウドファンディング勉強会をやるから講師をやってくれ」と頼まれた。

HIU会員にそれほど良い印象は持っていなかったが、講師業をやるのは好きだし、クラウドファンディングは好きなテーマなので、二つ返事で引き受けた。

その結果、冒頭のツイートに書いたように、「誰もクラウドファンディングをやる予定すらない」という有様だった。

これは衝撃的な体験であった。この頃から僕は

オンラインサロンにいるヤツは、なんとなく「オレ、イケてるぞ!」という気持ちを味わいたいだけで、何もできない人たちなんだろうな

と考えるようになった。

 

 

事例②「八木仁平のブログカレッジ」の場合

画像引用:https://www.jimpei.net/entry/burokare

 

時系列は遡るが、僕が初めて入ったサロンはこの「ブログカレッジ」だった。

ちなみに、このサロンは今はもう存在しない。どうやって消滅したのかは知らない。調べても出てこなかったので、フェードアウトのような形で消滅したと思われる。

 

このサロン主の「八木仁平」という男は早稲田大学2016卒(僕と同じ年の新卒だ)で、卒業と同時に「プロブロガー」になった。彼は学生時代からアフィリエイトでそれなりに結果を出しており、一般的な新卒を遥かに越える程度の収入はあったそうだ。

そして、大学を卒業した彼が満を持して始めたサロンがこの「ブログカレッジ」であった。

 

僕は参加したとあるパーティーで知り合った友人に勧められて、このオンラインサロンに入った。

ちなみに、この「友人」というのが最近話題の「プロ無職」るってぃなのだが、それはまた別のお話。

 

さて、このサロンの中身はどうだったか。

HIUと違い、「ブログをやる」という具体的なタスクが存在するゆえに、一応みんなブログをやっていた。

だが、集まってきている有象無象たちのブログは1ミリも面白くなかった。目を引く内容はほとんどなく、切り口も凡庸そのもの。「大学を休学した方が良い3つの理由」とかいう誰でも書けるゴミみたいな記事が跳梁跋扈していた。

 

だが、やはり中心人物は割と面白かったように思う。

八木仁平くんも、ネットでよく叩かれていたが、頭はキレるし面白い男だ。僕は嫌いではない。

 

結局のところ、構造はHIUと同じである。

「中心人物は有能で面白いが、集まってくる人間は無能で何も生み出せない」だ。

 

そして、

このサロン、どうですか?

と周りに聞くと、

 

楽しいよ〜!イベントいっぱいあるし!週に一回はサロンの飲み会来てるかな!

という答えが返ってきた。

判を押したように同じである。オンラインサロンに入るとそういうマニュアルが渡されるのかと思ってしまうくらいだ。

 

ということで、上記二つの事例を通して共通の問題「中心人物はすごいが、サロン会員は無能」ということを確認した。

僕はこれを「オンラインサロン会員は、光に集まってくる虫」と例えている。

そして、これはほとんど全てのオンラインサロンで共通していると思われる。僕は他のいくつかのオンラインサロンのイベントに参加したことがあるが、例外なく同じ印象を受けた。

 

例外:主催者も無能で、会員はより無能の地獄サロン

ちなみに、ここ一年で急増しているのがこのパターンの例外である。

オンラインサロン文化も煮詰まってきた感があり、とうとう「中心人物が無能だし、サロン会員はより無能」という地獄のようなサロンが出現し始めた。

訴訟になったら嫌なのであんまり言いたくないのだが、伸びシロサロンだのがんそんサロンだのは思い切りその部類だろう。

こういうの、今100個くらいあると思う。探せばもっと出てきそうだ。

 

「オンラインサロン会員は光に集まってくる虫」という例えを紹介したが、この地獄サロンは「闇の中でうごめく触覚が壊れた虫」である。地獄だ。

 

悲しい事実:有能な人はオンラインサロンに入るヒマはない

また、合わせて指摘しておきたい悲しい事実として、有能な人はあまりオンラインサロンに入らない。

なぜなら、有能な人は自分の抱えているプロジェクトや、仕事が忙しいからだ。

考えてみれば当然だろう。有能な人は引っ張りだこであるからして、面白そうな仕事の話が無限にやってくる。

何が悲しくてわざわざ金を払ってオンラインサロンに入らなければいけないのか。

 

結論:オンラインサロンは何かを生み出す場所ではない

さて、ここまで見てきたように、オンラインサロンは「何かを生み出す場所」としては機能しない。

考えてみれば当たり前の話だ。何かを作りたいなら有能な人材を必要最低限集めて、最速で進める方が良いに決まっている。

何かを主体的に作っていけるような有能な人なら、サロンに入るまでもなく自分で仲間を探して勝手に作っているだろう。

 

オンラインサロンは何かを生み出す場所ではないし、散々使われた枕詞「これこそが21世紀の労働だ!」とか「最高のアウトプットを出せる場所だ!」は全て欺瞞であろう。

 

だが、僕はオンラインサロンを否定しない

さて、ここまで否定的なことを書いておいて何なのだが、僕はオンラインサロンを否定しない。むしろ、どんどんやったら?と思う。

「オンラインサロンは参加者が主体的にものを生み出すプラットフォームだ!」は完全にただのウソなのだけれど、普通のサービス業として機能しているなと思うからである。

 

 

そう、何かが生み出されているかどうかはともかく、実際に顧客は満足している。

「無能で、何も生み出せない人間」が「何かを生み出す雰囲気」を味わって満足できるのだ。

 

 

換言すれば、理想と現実の隔たりをお金に変えるのがオンラインサロンと言えるだろう。

 

もしこのオンラインサロンがなければ、人は理想と現実の隔たりに苦しむ。

その苦しみを癒やしているのが、オンラインサロンなのである。

言うなれば、オンラインサロンが精神安定剤の役割を果たしているのだ。

 

サロン運営者は、会員に大して満足感を提供する。「生み出す人間でありたい」という欲求を適度に満足させて、対価としてお金をもらう。

これは、立派なサービス業である

 

だから、何ら問題がないと思う。ごく普通の商取引である。

 

そして、見方を変えると、カリスマ的な面白い人が自由に生きるための集金プラットフォームであるとも言える。

僕は面白い人が面白い生き方を模索できる世界が好きだ。そのための集金プラットフォームが整うのは良いことであると思う。

 

あの仮説を真に受けて、サロン提供者に回るべきではない

最後に、この記事を書いたきっかけをお伝えしよう。

昨日、僕が優秀だと思い、懇意にしている大学生の起業相談に乗っていた。

彼は「こういうサロンビジネスやりたいんですよ!!参加者が主体的にこういうのを生みだしていくサービスです!!面白くないですか!」と言った。

僕は、とうとうと上述の内容を話し、「何も生まれないからやめなさい。もっと儲かるものをやるか、サービス業だと割り切ってやりなさい」と伝えた。

 

そう、「これこそが新しい何かが生まれる場所だ!次世代の労働だ!」という主張を真に受けて、若者がサロン提供者に回るという悲劇が後を絶たないのだ。

僕もかつて、その一人だった。

僕はこの「次世代の労働」説を信じて、あの村という月額会員制サービスをやっていた。参加者が主体的に参加して何かを生み出す場所を作ろうとした。

そして、失敗した。僕は、「これただのサービス業やんけ」と思った。

顧客に生産させるのは、うまくいった部分もあるが、大筋は上手く行かなかった。詳しい話は「ぼくは村作りビジネスをやめる。そう決断するにいたった全経緯と教訓について」を読んで欲しい

 

「自分が作ったサロンの中で面白いものがどんどん生まれる。そして、お金まで儲かる」と聞くと、提供者側からすると良いことづくめに思うかもしれない。

だが、現実は非情である。実際には特に面白いものは生まれず、ただのサービス業と化すことはまず間違いないだろう。

そして、ただのサービス業である場合、提供者は何も面白くないことが多い。

 

あなたが今、サロンを始めようとしているなら、少し立ち止まって考えてみよう。

そこでは特に何も面白いものが生まれず、会員に満足感を提供する程度にあなたが頑張らないといけない。

さて、それはあなたの「やりたいこと」だろうか?

 

ぜひ、考えてみよう。

 

 

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途中から有料だけど、2000文字くらいは無料で読めます。無料部分だけでもどうぞ。

 

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author
Ken Horimoto
堀元 見

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