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俳句で爆笑してみよう。「尾崎放哉」の俳句のハチャメチャさについて。

面白いもの

あなたは、俳句で爆笑したことがあるだろうか。

僕はある。大学四年生の春だった。大学にほど近い定食屋の閉店間際、友人と二人で食事をしながら、尾崎放哉の俳句を読んで笑い転げた。

今日はそんな尾崎放哉の俳句について。

 

尾崎放哉とは?

尾崎放哉は、日本の俳人。「層雲」の荻原井泉水に師事。種田山頭火らと並び、自由律俳句の最も著名な俳人の一人である。鳥取県鳥取市出身。

Wikipedia「尾崎放哉」より

 

ここまで聞いてもピンと来ない人が多いかも知れない。だが、最も有名な一句は教科書で見たことがある人も多いだろう。

咳をしても一人

これである。俳句といえば「五・七・五」であるという常識を大きく覆している。

「せきを・しても・ひとり」は「三・三・三」だ。全然足りてない。本来の俳句は17音だが、これは9音だ。半分くらいしかない。

中学生の頃の僕は

堀元
こいつマジめちゃくちゃだな。超パンク。パンク俳人だ。

と思った。

この尾崎放哉の句のように、五・七・五の音にこだわらない俳句のことを「自由律俳句」と言う。

尾崎放哉はこの自由律俳句の俳人なのだが、とても味わい深い俳句を読む。それがどんどん面白くなってきて、最終的に大学生の頃の僕らは爆笑に至った。

そんな尾崎放哉の俳句の魅力を、じっくり紹介していこう。

 

尾崎放哉の魅力① 変遷を味わう

尾崎放哉とて、最初からめちゃくちゃな俳句を読んでいたわけではない。

最初のころは、マジメに俳句を読んでいたのだ。中学生の頃の俳句を一句見てみよう。

 

よき人の机によりて昼ねかな

 

この通り、ちゃんと五・七・五を守っている。

というか、守っているどころか、とてもいい俳句だ。

中学生らしい、かわいげのある情景が非常によく描かれている。

好きな女の子の机にもたれかかりながらウトウトするという、爽やかな放課後の教室の様子が目に浮かぶ。

 

堀元
なんだ、普通に良い俳句を作れるじゃないか

 

と思う。この感覚、何かに似ているなと思ったら、ピカソが子どもの頃に描いた絵を見た感覚だ。

13歳のピカソの描いたデッサン

 

ワケの分からないものを作る人の、子どもの頃の作品は普通に良いという現象が共通している。どんな世界でも同じなのかもしれない。

 

尾崎放哉は、東京帝国大学(現在の東大)を卒業しており、大学までは非の打ち所がないエリートコースを歩んでいた。

エリートコースを進んでいる間の俳句はずっと、ちゃんとしている。大学時代に読んだ一句はこれだ。

 

すき腹を鳴いて蚊がでるあくび哉

 

趣がある。貧乏学生の四畳半の夏の部屋、といった情景が浮かんでくる。こちらもやはり普通に良い俳句だ。

 

ところが、様子がおかしくなるのがこの後。

東京帝国大学を卒業した尾崎放哉は、新卒で就職した日本通信社を一ヶ月で辞めている。ちょっと異常な行動が見える。

そして、俳句もちょっとおかしくなる。五・七・五は全然守らなくなる。一句見てみよう。

 

今日一日の終りの鐘をききつつあるく

あえて切るとしたら、「八・七・七」だろうか。合計22音。だいぶオーバーしている。

 

もう一句紹介しよう。

小供等さけび居り夕日に押合へる家

これに関しては「四・五・四・七」な気がする。セグメントが1個増えるという驚きの展開だ

合計20音。こちらも本来の17音をオーバーしている。

 

そう、若いころの尾崎放哉はめちゃくちゃ音の数をオーバーする傾向がある。長い句ばっかり読んでいるのだ。25音くらいの句はたくさんあった。

 

この長い句ばっかりの傾向が変化してくるのが、晩年だ。

その生涯のラスト3年に差し掛かると、シンプルな句が増える。もちろん、「咳をしてもひとり」もこの時期である。

この時期の句を2句紹介しよう。

 

渚白い足出し

シンプル。「三・三・四」。内容はほとんどない。

だが、なんとなく情緒は分かる。「渚」と「白い足」の組み合わせ、良い情景だ。ムダなものを全部取り去った感じがする。

堀元
10音しか使ってないのに情緒を感じるのすげえな。俳句の技法、ここに極まれりかな

と思ったの束の間、次の一句はシンプルすぎて読むものを困惑させる

 

墓のうらに廻る

 

え?終わり?という感覚になる。

「三・三・三」。「咳をしてもひとり」は、孤独を表したかったんだなという気持ちが何となく分かるが、これは何を表現したいのかさっぱり分からない。

ただ事実を述べているだけではないか。これがありなら「コンビニでタバコ買う」もありになりそうだ。

 

このように、晩年の尾崎放哉には、ちょっとついていけなくなる。この感じはピカソの絵画を見るのと似ていて面白い感覚だ。

少年→若い頃→晩年、という俳句の変遷を楽しむことができる。

 

もっと詳しく見たい方は、「尾崎放哉選句集」が無料で読めるので参照されたい。

 

尾崎放哉の魅力② 悲しくて笑える

尾崎放哉の良さはなんといってもその悲しさにある。

しかし、底抜けに悲しいという感じではなく、俳句っぽい柔らかな言葉選びと音の気持ちよさで、悲しいのに笑えるという不思議な両立が生じる。

一句紹介しよう。

貧乏して植木鉢並べて居る

 

見よ。この悲しさを。

どういう状況なのかもよく分からないが、なんとなく情緒は感じてしまう。

そして、笑える。音が気持ちいい。「うえきばちならべている」というかわいい響きと「びんぼうして」という切実すぎる響きがミスマッチだ。

尾崎放哉の俳句は口に出して読むとより面白いので、音読をオススメしたい。僕が大学生の時にあんなに爆笑したのも、友人と音読しあったからだと思う。

 

悲しいシリーズは無限にあるので、他にも僕が好きなものをいくつかオススメしておく。

 

雨の中泥手を洗ふ

どろて」という日本語の力強さが悲しさを強化する。

 

一つの湯呑を置いてむせてゐる

ジジイかよ。40歳のときの句なのに。

 

入れものが無い両手で受ける

何を!?

 

こんな大きな石塔の下で死んでゐる

誰が!?

 

淋しい寝る本がない

「寝るときに読む本」のことを「寝る本」っていうんだな。

 

底がぬけた柄杓で水を呑まうとした

なんでそんなことしたんだお前。

 

冬川にごみを流してもどる

なんでそんなことしたんだお前。

 

以上、「悲しくて笑える」俳句は無限に紹介できるのだけれど、このあたりにとどめておく。

 

 

尾崎放哉の魅力③ 独特の言葉選びを楽しむ

尾崎放哉が好む言葉がいくつかある。そのどれもが、おそらく尾崎放哉が並々ならぬ愛情を注ぐモチーフである。

俳句を色々読んでいくと、尾崎放哉の好む言葉選びが理解できてきて、楽しい。読んでみて欲しい

しつこいようだが、音読がオススメだ。

音読すると面白さが二倍になるし、一度音読しておくと妙に頭に残るので、飲み会などふとした時に引用できるようになる(だからなんだという話でもある)

 

好む言葉(1)「犬」

「犬」に関する俳句は非常に多い。おそらく犬が好きなのだろう。

 

犬よちぎれるほど尾をふつてくれる

かわいい。珍しく「悲しみ」がない一句。犬が絡むと悲しみがなくなるのかもしれない。

 

犬をかかへたわが肌には毛が無い

と思ったら、急にめっちゃ悲しい。やはり尾崎放哉は、犬だろうがなんだろうが悲しいのだ。

毛がいっぱいの犬と、毛がない肌の対比をしてるのだろうけど、とにかく悲しい。

 

朝早い道のいぬころ

あ、「いぬころ」になった!

犬好きっぽいのに「いぬころ」って言い方どうなんだ。好意的じゃなさそうな表現だけど。

そして「犬」と「いぬころ」の使い分け、どういう基準なのか、大いに気になる。

 

迷つて来たまんまの犬で居る

迷つてきたまんまの犬」とはなんなのか。あんまりよく分からない。

 

 

山茶花やいぬころ死んで庭淋し

だよね。そう来るよね。尾崎放哉は「悲しさ」がウリだもんね。そりゃ死ぬよね。

 

好む言葉(2) 「蚊」

先ほど紹介した大学時代の俳句にも蚊が出てきたが、蚊もよく出てくる。好きなモチーフなんだろう。

 

すさまじく蚊がなく夜の痩せたからだが一つ

悲しさがウリの尾崎放哉の俳句の中でも、屈指の悲しさの一句。

「夜にたくさんの蚊に囲まれる痩せた人」という情景、だいぶ悲しい。

 

昼の蚊たたいて古新聞よんで

貧乏そうでヒマそうな一句。

しかし音がやっぱり気持ちいい。ラップっぽさも感じる。

 

すばらしい乳房だ蚊が居る

どういう状況?

「蚊がいる!これは良いおっぱいだ!」ってこと?その精神状態なに?

 

 

その他、良い俳句を紹介

以上、尾崎放哉の魅力を語ったが、まだまだ魅力的な俳句はたくさんある。

最後に、今までに紹介できなかった良い俳句を紹介して終わりにしよう。

 

よい処へ乞食が来た

そんなことある?「良いタイミングだ!ちょうど誰かに金あげたかったんだよ!」ってこと?

そんなことある?

 

 

爪切つたゆびが十本ある

お前が爪切ったからな!

爪を切り終わった後に思ったんでしょうね。「爪切った指が10本あるなあ」って。

 

花火があがる空の方が町だよ

そんなキャラだっけ?

「町だよ」みたいな口調だっけ?

 

足のうら洗へば白くなる

こんなもん、笑うよ。

なんなんだ一体。ここにこめられたメッセージは何なんだ

 

両手をいれものにして木の実をもらふ

あ、これさっきの続きだ。

「いれものがない両手で受ける」の続きっぽい。木の実だったんだね。伏線回収したね。

 

まとめ

以上、尾崎放哉の良い俳句をまとめた。

記事の途中でもリンクを張ったが、「尾崎放哉選句集」が青空文庫で無料で読めるので、皆さんもぜひ自分のお気に入りの一句を見つけて欲しい。

 

余談だが、尾崎放哉の俳句を読むとしばらくは頭に残りつづける。

僕は一度読んで以来、入れ物が見つからないたびに「入れ物がない両手でうける」と言いたくなってしまう。

脳裏に強く焼き付く尾崎放哉の世界を、あなたも味わってみてはいかがだろうか?