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教師とは、神であるべきなのか -辻村深月「パッとしない子」に見る教育の理想と現実

教育

こんにちは。株式会社つくってあそぶという謎の零細企業を経営しています。なぜ潰れないのか、代表取締役の僕も不思議でなりません。

さて、本日はいたく感動した「パッとしない子」という短文小説について書いてみます。15分で読めるのに、教師の役割とは何なのかを問いかけている、めったに見ないくらいの名文でした。

 

辻村深月「パッとしない子」

辻村深月という小説家がいます。「冷たい校舎の時は止まる」などで知られる本格ミステリ作家です。直木賞も受賞しており、ちょっとは名の知れた小説家です。

僕も彼女の小説は何作か読んでおり、叙情的でいいミステリを書く作家だと思っていたのですが、つい先日、「パッとしない子」という短編小説を読んで、評価が一気に変わりました

 

 

教育とは何かを問いただす傑作

「パッとしない子」は、めちゃくちゃ短い小説です。電車の移動中15分の間に読めます。

しかし内容が薄いのかと言えばそんなことはまったくなく、むしろ劇的に濃い内容で、教育とは何かを問いただしています。

以下、象徴的なセリフを一部抜粋。

 

ぼくのことを”パッとしない子”だと言ったなら、それこそがぼくと先生の関係がその程度だったことの証明です。

先生が仲がよくてかわいがってたのは、ぼくでもぼくの弟でもない誰かで、ぼくらじゃない。

ぼくにも、恩師と呼べる先生が何人かいます。その先生たちは間違っても、ぼくの印象を聞かれたときに”パッとしない子だった”なんて答えない。

ぼくと何を話して、どんなやり取りをしたか、ちゃんと覚えている先生たちと、あなたは違う

 

話の本筋としては、

  • 主人公は女教師。とある昔の教え子が、国民的スターのアイドルになった。
  • 教え子だった頃の印象をしばしば聞かれて、その都度”パッとしない子だったんだよね”と答えていた。
  • しかしアイドルの教え子はそれが不満だった。
  • そして、久しぶりの再会でアイドルは伝える”僕はあなたみたいな教師が大嫌いです”

と言った内容です。

 

ごく短い小説なのですが、辻村深月の文章力で、教育が抱える問題とは何か。教師とはどういう存在であるべきなのかを見事に照らし出しています。

 

さて、元生徒であるアイドルの主張はこんな感じ

  • 先生は、自分をちやほやする生徒に甘く、感情をあまり出さないぼくのような生徒には冷たかったですよね
  • あまつさえ、人気取りのために、自分の受け持ちクラスのことを他クラスに対して悪くいうようなことさえあった
  • あなたは僕のことをパッとしない子だと言った。あなたは自分が可愛がっていない子の印象はその程度なのでしょう。それならそれで構わない。しかし、それでぼくのことを知っているかのように言うのは我慢ならない

 

それに対する教師の言い分はこんな感じ。

  • 私は社会通念に照らしてそれほど悪いことをしただろうか?
  • 確かに、全ての生徒を平等に愛することはできなかったのかもしれない。だがそれが何だというのだ。人間ならば上手くやれる相手とうまくやれない相手がいる。教師だろうが同じではないか
  • 私は積極的にあなたをクラスから阻害したわけではない。ただ、少しだけ扱いに困っていただけだ。それが責められるほどの罪なのだろうか。

僕は、どちらにも一理があると思いました。そして、あえてどちらかの味方をしろと言われるのならば、教師の味方をします

 

教育者は本当にツラい。そして、神ではない

僕は、大学生の頃、教育こそが自分の天職だと信じて疑いませんでした。バイトは塾の先生。ボランティアは教育系のNPO。そして空いた時間は全て使って教育系ベンチャーの立ち上げを手伝っていました。

僕は当時、間違いなく教育者を志していたし、理想の教育者とは何なのかを考え続けていました。

その結果、当時たどり着いた結論(今も変わっていません)は、自身の知のカリスマ性により、人間同士の知の相互作用を発生させられる人こそが理想の教育者である、という結論でした。

つまり、万人に大して愛を持って接するなどという条件は何らなく、むしろ自己中心的に振る舞った結果、そのカリスマ性で知性ある若者をひきつけ、知の相互作用を生む人こそが教育者だと思いました。これは今でも正しいと思っています。

例えば、僕が20世紀最高の教育者だと思っている人は、旧1000円札でおなじみの「夏目漱石」です。

彼は本当にすごかった。一教師であり一文筆家であるにも関わらず、その知のカリスマ性で圧倒的に多くの知性ある若者を集めて、俳句の会などを通して相互作用させました。

結果、彼の門下からは、物理学者の寺田寅彦など、夏目漱石とは全く異なる分野のインテリ達が多数羽ばたいています。

 

……話が逸れたので本筋に戻しますと、現代は教育者に求めるハードルがあまりにも高すぎると思うのです。

教育者である以上、どんな生徒にも平等に接するべきだというのはあまりにも厳しすぎます。人間である以上、人間の好き嫌いは存在する。そして、その好き嫌いを否定しないことこそが本質的な人間性であるはずです。

人間性を隠してまであらゆる生徒に平等に接しろというのなら、それこそ教育者の本懐から離れているように思います。教育者の真の使命は、”人間とは何か”を教えることなのですから。

 

僕はかつて教育者を志して敗北したものです。しかし、今でもその名残で教育についてはよく考えます。

そして、教育者の本懐は、”気持ちを押し殺して場当たり的にあらゆる生徒に愛を捧げる”では断じてなく、むしろ”世の中の現実について考えさせる。大人の不完全な人間関係構築を目の当たりにさせる”だと思っています。

 

しかし、それが許せない子どももいる。そのせいで一生のトラウマを背負う子どもさえいる。

そんな現実に直面し、苦しむ主人公教師の物語が、「パッとしない子」です。

教育について深く考えたことがある人も、ない人も、無条件で【教育とは何か】を突きつけられる本作、間違いなく名作です。

明日の出勤時刻のお供にでも、皆さん読んでみてはいかがでしょうか。

Kindle UNLIMITEDに加入している方なら完全無料。加入していない方でも200円以下で読むことができます。
名作ですので是非ご一読の上、思ったことを教えて下さいますと幸いです。

以上、辻村深月「パッとしない子」の話でした。教育について話すの大好きですので、是非皆さん付き合ってください。

author
Ken Horimoto
堀元 見

仕事は「新しいあそびを作ること」。異常なイベントを企画したり異常なWEBサービスを作ったりしながら生計を立てています。

好きなものはトンカツとインターネット。あと人の悪口。(性格が)悪そうなヤツはだいたい友達。

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