「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」の書評メモ

人間の性はなぜ奇妙に進化したのか
人間の性が進化の過程でどう作られたのかを考察した本。「なぜセックスは楽しいのか?」「なぜ夫は子育てを手伝わないのか?」などの疑問が学問的に解決して最高。あと、どぶろっくが「大きなイチモツをください」って言ってた理由も分かる。
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セックスが楽しいものであるなら、自然淘汰を通じてそれを楽しいと感じるようになったに違いない

ジャレドダイアモンド.人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(Kindleの位置No.1129).

 

どんな本か?

  • 「銃・病原菌・鉄」で知られるベストセラー作家であり進化生物学者のジャレド・ダイアモンドが書いた進化生物学×性の本。
  • 原題は「Why Sex is Fun?」つまり「なぜセックスは楽しいか?」である。原題は過激すぎて改題されたっぽい。
  • タイトル詐欺ではなく、「なぜセックスは楽しいか?」をはじめとする様々な性の疑問に答えている。
  • 軽薄なゴシップ本ではなく、学者が数十年にわたる研究を元に書いてるので、めっちゃ骨太。明確な論理展開で、「こういう研究からこういう結論が導かれる」と体系的に書かれているので、読めば「なぜセックスは楽しいか」が明確に説明できるようになる。

 

よかったところ

  • 身近な疑問に対して学問的に切り込んでくれると気持ちいい。居酒屋で交わされるフェチについての議論とか、「オレはこれが好き!」に終始してしまうので知的好奇心が満たされないんだよな。
  • 一方、この本は「なぜ男は女性の胸に関心を持つように進化したか?」が仔細に述べられるので、とても面白い。
  • 疑問に感じたことさえなかったこと(なぜ女性は、排卵日のシグナルを出さないのか?とか)についてたくさん考える機会になった。
  • 著者のちょっとしたユーモアがいい。ジャレド・ダイアモンド、「学会発表にユーモアを散りばめる学者」感があって好き。語り口がやはり上手い。

 

つがい相手以外との交尾の現場を見つかってしまう危険は、多くの動物種に共通で、もちろんヒトも例外ではない(どころかその代表格である)。

ジャレドダイアモンド.人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(Kindleの位置No.1162-1163)..Kindle版.

「セックスの危険性」について書かれた一文。クスリと笑わせにくるところがいっぱい。

 

悪かったところ

  • ジャレド・ダイアモンドの本は大体いつもそうなんだけど、網羅性がすごい分、テンポはちょっと悪くなる。「A説とB説とC説があり、A説にはこういう反論が考えられ、B説にはこういう反論が…」とちゃんと書いてるから「結論が遠い!」とちょっとやきもきする。
  • でもまあちゃんとした本だからそれはしょうがない。ウソかホントか分かんないような自説だけ展開されるよりずっと良いと思うよ。

 

この本を読むと分かること

  • 「なぜ夫は子育てを手伝ってくれないのか?」
  • 「セックスはなぜ楽しいか?」(より詳細には、「人間はイヌと違って発情期がない。排卵日から遠く離れた、妊娠が望めないタイミングにもセックスする。そんなエネルギーの無駄遣いをなぜするのか?」)
  • 「地味で堅実に稼いでくる男子よりも、派手でうだつの上がらないヤンキー男子の方がモテる理由」
  • 「なぜ女性は閉経するのか?」(他の生物はほとんど閉経なんてしないよ。繁殖できなくなったら生物学的に損じゃん)
  • 顔の良い人はなぜモテるのか
  • etc……

 

読んで発見したこと

この本の最後には、「なぜ人間のペニスはこれほど大きいのか?」という疑問が出てくる。実は性行為の必要を満たすには4センチくらいで十分らしい。

ヒトのペニスのサイズはたんに機能的な必要性を超えており、その余分なサイズはシグナルとしての役割をはたしているようだ。勃起したペニスの長さはゴリラではわずか三センチ強で、オランウータンは四センチ弱であるのにたいし、ヒトは一三センチに達する。

ジャレドダイアモンド.人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(Kindleの位置No.2344-2346)..Kindle版.

必要なサイズを圧倒的に越えてまで大きく進化した男性器。これめちゃくちゃ面白いテーマだな、と思った。

っていうか、これアレじゃん。どぶろっくじゃん。

(キングオブコント2019より引用)

大きなイチモツをください」という、昨年最も注目を集めた願いごとだ。

この願いごとはナンセンスだと思われがちである。事実、ネタの中でどぶろっくのツッコミの方も「女性は別に大きなイチモツを求めてないよ!」とツッコんでいたし、女性の声を集めても「別にペニスの大きさはどうでもいい」という声が大多数らしい。

だが、その意見は進化生物学的には正しくない。必要な大きさを圧倒的に越えて大きくなったのだから、繁殖戦略上なんらかの有利さがあるはずだ。

 

本書ではこの「大きすぎるペニス」問題について明確な結論は示されないが、仮説はいくつか提出される。

その一例を見てみよう。

  1. 大きいペニスは、合成するのに多くのエネルギー(カロリー)を必要とする
  2. そのエネルギーは、他の部位(例えば「脳」や「手足」)を合成するのに使った方が生存に有利なはず。無駄遣いである。
  3. しかし、その無駄遣いをしていてなお、男は生存している。つまり、無駄遣いできる余裕があるほど優秀であることを示している。
  4. つまり、大きなイチモツは「オレは金持ちだからスポーツカー買っちゃうぜ」という男と同じ優秀さの証左なのだ。

こんな感じ。とても面白い仮説だ。

性行為には別に大きなイチモツは要らないんだけど、人類の歴史の中で「大きなイチモツ」は「スポーツカー」と同じ役割を果たしてきた、と。

そう考えると、どぶろっくのボケの方がかたくなに「大きなイチモツ」を求めるのも理解できる。スポーツカー乗ってる方がモテるからね。

 

この「大きすぎるペニス」問題については結論が出ておらず、他の仮説も一緒に紹介されていた。そして、本書はこう締めくくられる。

 

このようにヒトの性的器官として最もなじみ深く一見ごくわかりやすいと思われる部位ですら、未解決の進化上の謎を含み、われわれをはっとさせるのである。

ジャレドダイアモンド. 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (Kindle の位置No.2411-2412).

 

身近にあふれる疑問に気づく歓びときっかけを与えてくれる、素晴らしい締めくくりだと思う。どぶろっくの下ネタにすら、進化生物学上の大きな謎が隠されているのだ。

 

人間の性はなぜ奇妙に進化したのか
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書いてる人
Ken Horimoto
堀元 見

文筆家・自由研究家・企画屋。興味の赴くままに本を読みます。流行り物よりもニッチな本や古典を好みます。

最近の関心領域は「栄養と化学」です。栄養とか健康って高校化学の知識で割と理解可能なことに気づきました

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