母の死で薬を知った しかし今 生き抜くために同じ薬飲む
「鳥居-セーラー服の歌人~拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語」 p173より引用
どんな本か?
- 「鳥居」という名前の歌人の生い立ちを書いてる本。鳥居は下の名前はないらしい。ジェンダーとか社会的な属性を飛び越えたいから。
- 母親の自殺・児童養護施設での虐待・義務教育もほとんど受けてない・施設を飛び出してホームレスに…と、不幸のサラダボウルみたいな生い立ち。
- 著者はジャーナリスト。本人にインタビューした情報を編集して一冊の本にしたようだ
- 読みやすくて割と楽しく読めたけど、提唱してる運動は思慮浅薄に感じた。本としての評価は65点かな。
発見したこと・考えたこと
- 短歌、結構いいぞ。現代短歌って全く読んだことなかったけど、詩をギュッと縮めた魅力があって現代的。この喩えをすると怒られそうだけど、「詩がテレビで、短歌がYouTuber」みたいな。
- でも短歌の世界で食えてる人、ほとんどいないらしい。トッププレイヤーも歌集を自費出版に近い形で出してる。
- 短歌ってそんなに儲からないのか?確か朝日新聞かなんかが「川柳」のWEBサービス買収してた記憶がある。川柳は儲かるのだろうか。
- 太宰治の「畜犬談」の中から「芸術家は、もともと弱い者の味方だったはずなんだ」というフレーズがたくさん引用される。これめっちゃいい。
- でも、「畜犬談」の中にこんなフレーズあったっけ?読んだことあるのに全然思い出せない。太宰治がひたすら犬の悪口言うコミカルなエッセイだったと思うんだけど…
- 「義務教育を一応卒業したけど内容は理解してない」人のことを「形式卒業者」と呼ぶらしい。聞いたことあるようなないような。本書では、形式卒業者が学び直すことの難しさを社会問題として扱っていた。僕はほとんど意識したことのない社会問題だった。
よかった短歌
- 母の死で薬を知った しかし今 生き抜くために同じ薬飲む(p173)
- 待ち受けの<旦那と子ども>を見やる人 緞帳上がりポールに絡まる(p207)
- ご遺族に会わないように大雪を選んで向かう友だちの墓(p111)
よかったところ
- 母が自殺して身寄りがなくなった後に預けられた施設の話が衝撃的すぎてビビった。
- 他の子どもに暴力を振るわれすぎて足に大きなキズを負った後に彼女が取った行動は「ジーンズを履いてキズを隠す」だった。「ここはジャングルと同じだ。弱点を見せたら狙われてしまう」らしい。現代日本にそんな児童養護施設あんの????
- 「他の子どもはおろか、先生にもキズは見せられない。施設に信用できる人はいない」みたいなことも書いてあった。だから、現代日本にそんな施設あんの???戦後まもなくの話とかじゃなくて???
悪かったところ
- 施設の話、壮絶すぎて面白かったのだけれど、荒唐無稽すぎてリアリティに欠けてた感もある。これ話盛ってないのかな…?
- 施設の経験から、鳥居は「弱っている人の救いとしての短歌を広めようとしている」らしいけど、施設の話がホントだとしたらそんなことしてる場合ではなくて、しかるべき行政機関に全力で告発すべきでは…?もう是正されてるんならいいけど、その説明も特になかったので気持ち悪い。
- 「形式卒業者が義務教育を学び直す場所がない問題」、まあ理屈は分かるんだけど、「だから私はできません」という諦めを感じて気持ち悪かった。
- 「形式卒業者用の夜間学校に行っても、私は問題なく読み書きができるので、中学生レベルのクラスに入れられてしまう。しかし、私は割り算の筆算ができないのです。こんな状態で方程式が解けるでしょうか?」と、問題を訴えていたけど、読み書きできるなら割り算の筆算は自助努力できるのでは……?夜間学校運営者もそういう基準で判断してると思うけど。
まとめ
- 短歌はすごくよかった。あと、現代短歌という普段興味ない分野について考える機会になって面白かった。
- 「こういう問題について社会に訴えていきたい」の部分はちょっとあまり共感できなかった。社会に訴えるよりも現実的な解決法がありそうな気がした。