「合コン」というものに、大きな違和感を抱いていた。
サラダの取り分け速度で競い、頼むお酒のセンスやうんちくで競い、いかに的確に相手のファッションのこだわりを褒められるかで競う。
それは出会いの場として正しいのか…?サラダが取り分ける速度、人間の本質と何も関係ないのでは…?
そんな疑問を元に、この度「プレゼン×合コン」というイベントを開催した。
なぜ合コンでサラダの取り分け合戦が発生するかといえば、目の前の人を判断する情報が少なすぎるからである。
自己紹介はほんの一言に終わるし、ノリが良い軽妙な会話が求められるため、込み入った長い話はできない。
では、自己紹介の尺を激烈に伸ばしてみてはどうだろうか?
むしろ、パワーポイント資料を作ってきてもらい、プレゼンしてもらってはどうだろうか?
それが今回のイベントの趣旨である。
開催するまではどんな空気になるかさっぱり分からなかったのだけれど、結果的にユニークなプレゼンが大挙襲来してすごいことになった。
今日はその様子をお伝えしたい。
爆発する参加者の個性
事前に参加者全員に、プレゼン資料作成をお願いした。
制約は「プレゼンが5分以内におさまること」のみとした。それ以上の条件はつけない方が、皆の個性が出て面白いだろうなと思ったのだ。
結果から言えば、その感覚は当たっていた。参加者の個性が爆発する空間になった。
例えば、プレゼンの最後に踊る人がいたり……
「優しい彼氏とトレーナー彼氏を比較する」というフリップ芸人のネタみたいなプレゼンがあったりといった感じだ。
皆、斬新な発想で目立とうとしているのが分かる。そう、プレゼン×合コンはプレゼン力がものを言う世界。プレゼンで目立てなければ敗北が待っているので、自然と「とにかく印象に残ろう」という戦略になる。
考えすぎて、自分のことそっちのけで「鉄道の話」をずっとしていた人もいた。
この人は、「鉄道の人」として印象に残ることには成功していたが、鉄道の情報しか頭に残らなかったので人間として興味を持ってもらうことは失敗していた。策士策に溺れる、といった趣がある。
ビジネスに寄せる人たち
また、非常に印象的だったのは、プレゼンという題材を活かしてビジネスに寄せる人たちである。
例えば、広告系会社勤務だというこちらの女性。
第一声から「2019年春タイアップのご提案をさせて頂きます」と、広告系らしさ溢れるプレゼンを始めた。
スライド下のロゴは、それらしいものを自作してきたらしい。すごいこだわりだ。
大手広告系会社に勤める彼女の労力をこんなことにたくさん割かせてしまった。こんな変なイベントが日本のGDPを引き下げてしまって申し訳ない気持ちが湧いてくる。
そして、彼女の次の一言は「本日のアジェンダはこちらになります」だった。
「与件の整理から始めさせて頂きますと…」と語る彼女の顔は、バリバリのキャリアウーマンであった。
ちなみに、他にも広告系のお仕事をしている女性がいたのだが、
示し合わせたかのように「与件整理」していた。
そんなニッチな用語でカブるな。
また、ビジネスっぽいプレゼンは、聴く人たちも自然に身が引き締まる。
この真剣な眼差しである。「それエビデンスあるの?」とか「君のビジョンは何?」とか言い出しかねない表情だ。
意識高い就活イベントも真っ青な合コン。それがプレゼン×合コンである。
また、メモを取っている人も散見された。一生懸命みんながメモを取る空間はもう合コンでも何でもない気がするが、僕にはイベントタイトルをつけた責任があるのでこれは合コンだと言い張る。
決算説明会との類似性を指摘
また、大いに会場を沸かせたのがこちらの男性のプレゼン。「プレゼンのためにスーツを着てきた」らしい。彼もやはりビジネスに寄せようとするものの1人だ。
そんな彼のプレゼンの第一声は「今日は、合コン×プレゼンに更にもう一つ要素を足します」という衝撃の宣言。
会場にいる誰もが、いやもう要素はお腹いっぱいだから足すなという気持ちになったことは言うまでもない。
音楽ライブなどで「会場が一体になった」という表現をすることがあるが、プレゼン×合コンの場においてもこの瞬間は間違いなく会場が一体になっていた。
そして、満を持して始まった彼の主張がこちら。
合コンと決算説明会は同じだという主張。むちゃくちゃなのだが、
爽やかな物腰と鋭いテノールの語り口で、みんな「なるほど確かにな…」と納得させられてしまう。ほぼ詐欺師である。
終わった後で「言ってることは意味不明なのにすごい説得力でしたね」と話しかけたら、「老人に壺を売れと言われたらナンバーワンになる自信があります」と言っていた。そんなことで威張らないでほしい。
あと、彼が使っていたこの図は結構すごいと思った。恋人との交際を会社の提携に例えているのだが、恋人がいた期間がひと目で分かる。いわゆる「彼女いない歴」を質問して相手の恋愛遍歴を推測するよりよっぽど効率的だ。
事前に資料を用意してくることで、効果的に情報を与えることができている。このスライドはまさにプレゼン×合コンの趣旨を体現していると言えよう。
究極の「身内ネタ」を放り込まれる動揺
個性豊かなプレゼンが溢れる中、会は終盤に突入した。
終盤に登場したこちらの女性、「食糧備蓄マニア」であることを熱く語っていた。
持ち時間のほとんどを食糧備蓄について語っていたので、会場は「あ、これ鉄道マニアの人と同じパターンや…」となり始めた。
そしてプレゼンも終わろうかというタイミングで、異変が起こった。
「私は元々結婚していたのですが、先日結婚生活に終止符を打ちました」という解説とともに、映し出される結婚式の写真。
どうということのない写真なので、会場は普通に受け入れているのだが、僕は驚愕のあまりタイムキーパーの役割も忘れてスライドを見つめてしまった。
なぜなら、僕の両親が写っていたからだ。
「えっ…!」と僕が思わず声を上げるのに合わせるように、プレゼンする女性の声が続く。
”実は私の元旦那は、今日の主催である堀元さんのいとこにあたりまして、堀元さんと私は元親戚です。
まあ、結婚式の招待状を送ったのに無視されて来てくれなかったので今日が初対面なんですけどね。
堀元さんのことはSNSを見つけて知っていたので、このことをバラしたくてこっそり参加しました!”
自分の主催イベントという公衆の面前で親戚づきあいが悪いのをバラされた瞬間である。
実は、申込み名簿を見た時点で僕は彼女の名前に見覚えがあった。「うちの親戚にこの名前いるな」と一瞬頭をよぎった。だが、同姓同名の他人なんていくらでもいるだろうと全く気にも留めなかった。
その結果としてこの仕打ちである。結婚式行っておけばよかった…。
親戚の結婚式をサボっていると、イベント中にバラされる可能性があるという脅威の事実を学習した。ぜひ皆さんも反面教師にして頂きたい。
一言で、誰よりも印象に残った男性
プレゼンテーションの極意に、「メッセージを一言でまとめろ」というものがある。どんなプレゼンでも最終的に伝えたいのはたった一言に過ぎない。
例えば、現代最高のプレゼンとして名高いスティーブ・ジョブズのiPhone発表プレゼンも「今日、アップルが電話を再発明する!」というたった一言に凝縮されている。
そして、このプレゼン×合コンで最高に印象に残った男性も、やはりたった一言に、メッセージを凝縮してきた。
一見普通そうに見えるこちらの男性だが、彼のプレゼンの切り口は誰よりも優れていた。
単純明快で強いメッセージ。そして、非の打ち所がない論理展開。スティーブ・ジョブズもかくやという至極のプレゼンが、そこにはあった。
以下、彼の主張を見ていこう。
「いい男とは何か?」という大きな問を会場に投げかける。
そして、「高収入」や「高身長」、「イケメン」といった普通の基準を全て否定する。
彼の答えはこれだ。
彼はこれをすごい勢いで真顔で主張する。「迫真」という言葉がピッタリなその剣幕に、会場は「え?これどんな顔して聞けばいいの?」という混乱に包まれた。
そして訪れるカタルシス。徳を積んだ高僧のような滔々とした語り口で、彼は語る。
「私には男性力があります。なぜなら……」
「精子の量がめっちゃ多いからです」
どうだろうか。この有無を言わさぬ説得力。
シンプルで質実剛健なメッセージに始まり、反論のしようがない数字のエビデンスが与えられる。彼の精子量は常人の10倍をゆうに越えている。
ちなみに、彼はこのプレゼンのためだけにわざわざ精液を送付して研究所で調べてもらったらしい。絶対にもっと有意義な時間とお金の使い方があると思う。
そして、「女性の皆さん、私と一緒に子づくりしましょう」という最低のクロージングで彼のプレゼンは終わった。
女性からの好感度はともかく、会場はめちゃくちゃウケていた。
ジョブズばりの洗練されたプレゼンをすると、やはり会場は湧く。ビジネスであろうと合コンであろうと、プレゼンの極意はたった一つ、強いメッセージを打ち出すことだけだ。そう思わずにはいられない迫力のプレゼンであった。
終わった後の交流
プレゼンが終わった後は自由交流タイムとした。
「プレゼンの中で気になったものにツッコミに行く」というスタンスの人が多かった。
プレゼン内でダンスをしていた人にレパートリーを聞いたり、「区議会議員選挙に出馬したことがある」という人に選挙の様子を聞いたり、精子を研究所に送った人に料金を聞いたりという時間の使い方が目立った。
ちなみに、僕はこの時間を主に結婚式に行かなかったことへの謝罪に費やした。すみませんでした。
あと、精子量の人が女性にチヤホヤされているのを見る度に「お前みたいな最低のヤツがモテるんじゃない!」という気持ちになった。
この交流タイムでは、割と話が弾んでいたのではないかと思う。
スライドで視覚的に情報を得ているから、普通に話を聴くのに比べてかなりの理解度で交流できていた。
「その人がどういう過去をたどってきたのか」は口頭で聞いただけではピンと来ないが、写真付きで体系立てて説明されると、たった5分でもかなり分かった気になれる。
また、ツッコんでいい話題かどうかが分かっているというのも大きい。普通ならば踏み込むのを躊躇してしまう込み入った過去の話や性の話も、「プレゼンしているくらいだから質問していいのだ」と思うことができる。
テキトウな思いつきから企画したイベントだが、新しい男女の出会いの場兼エンタメの場として案外良いのではないかと思った。
スライドを作ること自体はかなり手間がかかるが、一度作れば使い回しができる。最初の一度の手間をかけるだけで、ミスマッチや非効率を減らせる。そして何より、面白い。
サラダの取り分け速度を競うような茶番に飽き飽きしている皆様には大いにオススメである。
本企画は僕の発案であるが、パクってOKだ。ぜひ新しいムーブメントにしていきたいので、皆さんどんどんパクって欲しい。そしてパクる際は様子を聞きたいので、もしよければ僕のTwitterにDMをくれたら嬉しい。
まとめ
- プレゼン×合コンは面白い。予想外のことがたくさん起きた。親戚付き合いの悪さがバレたり、精子(のデータ)が出てきたりした。
- 全体的に高学歴でいい会社にお勤めの方が多かった。日本のエリートの力をこんなことにムダ遣いさせてしまって申し訳ない。
- 親戚の結婚式には行っておいた方がよい。
次回予告
今回と同じ会場、同じスポンサーの元で毎月イベントをやっている。4月は「伏線見破りパーティ」という企画をやる。
─ミステリー小説みたいな伏線が実際にあったら、あなたは気づけますか?
☆【概要】
「なんであの人、さっきの話を急に忘れたんだ…?」そんな不思議なことが多発する飲み会です。
そして、飲み会の後半の「伏線回収タイム」で、「実は双子の弟が入れ替わっていた」という真実が分かります。
張り巡らされた伏線を手がかりに、あなたは目の前の人の真相を推理できるか!☆【ルール】
①全員が「自分で考案した架空の設定」を持ち寄って、飲み会の前半で伏線を張り、最後にそれを回収します。すなわち、全員が出題者であり回答者でもあります。
最初の1時間は「伏線を張る時間」です。普通に飲み会で交流しながら、「なぜこの人はさっき話したことを急に忘れたんだ?」など、疑問に思うことがいっぱい出てきます(皆さんが用意した伏線です)。②後半1時間は「伏線を回収する時間」です。序盤で張った伏線を、どういうことだったのか一人ずつ解説してください。
例えば、「話の変なところに食いつく」人に疑問を持っていたら、実は「50年後から来ていて現代の文化に興味がある未来人」ということが最後に明かされます。③おのおの、持ってきた伏線を上手に張りつつ、人の伏線を「どういうことだ…?」と考えるのを楽しみましょう!
自分の伏線に頭を抱える他人を見るのも楽しいし、他人の伏線について考えるのも楽しいですよ!
4月28日(日)の15時からである。
複雑でシュールな企画だが、面白がってくれる人はぜひ参加して欲しい。より詳しい情報は以下のツイートからどうぞ。
4月28日(日)に「伏線見破りパーティ」というイベントをやります。
ミステリーの伏線のようなできごとが我が身に降りかかったら、あなたは真相にたどり着けるか?という趣旨のイベント。
多分何言ってるか分からないだろうけど、意味が分かる人はぜひ参加して欲しい!参加はリプ欄のフォームから! pic.twitter.com/1BVLkTdHLL
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) April 7, 2019
Facebookイベントページはこちら→伏線見破りパーティ
参加フォームはこちら→「伏線見破りパーティ」参加フォーム
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悪口しか言えない飲み会をやったら地獄になった話。
異業種交流会にウソつきが混ざっているという趣旨のイベントをやったら疑心暗鬼になった話。よく見ると精子の人がここにも参加している。
旅人コミュニティと旅人コミュニティ嫌いを戦わせたら、なぜか僕が一番ダメージを負った話。
後日追記
イベントが終わってから2ヶ月ほど、参加者に連絡をもらった。なんと、「私たち、付き合い始めました」的な連絡だった。
ちょっと前にやったこの企画「プレゼン×合コン」の参加者から「私たち、付き合い始めました!」という連絡をもらった。
主催しておいて何だけど、「ええ~、あれ合コンとしてちゃんと機能すんの…!?」とビックリしている。世の中予想外のことだらけだ。https://t.co/GOrUJapdTO
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) June 22, 2019
すごい。ちゃんと合コンとして機能してる。
ちなみに、付き合うに至らない人たちも食事に行ったりはしていたようなので、実は相当優秀な出会いの場なのかもしれない。
もしかしたら金脈が眠っているかもしれませんので、皆さんぜひやってみてください。僕も今度は司会じゃなくて参加者として出てみたい。