「YouTuberはテレビより面白い」は嘘だと思っていた
「YouTuberはテレビより面白い」という言説を、あなたは目にしたことがあるだろうか。
この言説は2〜3年ほど前から、しばしば取り沙汰されるようになった。その根拠は大きく分けて3つだ。
- テレビと違って放送倫理の縛りが弱く、自由な企画ができる
- スポンサーやディレクターの意向がないので、より独自性のある企画ができる
- 大衆に届ける必要がないので、マニアックな内容を扱える
僕は、この言説を目にする度に思っていた。「嘘つけ」と。
①に関しては、そもそも面白いギリギリを攻めているYoutuberがほとんどいない。単に食べ物をムダにしていたり、世間に迷惑をかけているだけのヤツの方が多かった印象だ。
②に関しても、それほど強いメリットとして感じられたことは少ない。テレビ局の人が作っている水曜日のダウンタウンの方がよほど独自性のある企画をやっているような気がしていた。
③に関してはその通りなのだが、マニアックな人は徹頭徹尾マニアックになってしまって、いわゆる「テレビ的な面白さ」とは全く路線が違うところに行きがちであった。延々虫を捕まえたり食べたりする人のチャンネルは、たしかに面白いけど、それはあくまでアングラ的な面白さにすぎない。
そんなワケで、僕は「YouTuberはテレビより面白い」言説に対してはかなり懐疑的であり続けてきた。
3つの根拠には正当性はあるけれど、その3つを上手く活かしてテレビ的な面白さに昇華することは難しいだろうなと思い続けてきた。
だが、実践できている人がいた
そんな僕だが、先日とあるYouTuberにハマり倒した。
「QuizKnock」というYouTuber集団だ。
彼らは、前述の「③大衆に届ける必要がないので、マニアックな内容を扱える」というメリットを150%活用しながら、バラエティ番組的な面白さを作り出しているのだ。
実例を見ていこう。例えば、こちらの動画。
「朝からそれ正解」という企画だ。昔TBSでやっていたバラエティ番組の企画と同じ。つまりテレビの丸パクリである。
企画としては独自性のかけらもない。YouTuberであるメリットを全然活かしてないように見える。
だが、内容がすごい。以下、上記動画からスクリーンショットを転載していく。
「そ」で始まる難しいもの、というお題。
これに対して、最初は「ソクラテス」や「相対性理論」という言葉が並ぶ。
このあたりは、地上波でも問題なくできる領域だ。「難しい」と言われてピンと来るものだろう。
圧巻なのは、この回答である。
「素因数分解」だ。
あなたはこの回答を見てどう思うだろうか?
「とんちんかんな回答だ」と思うか、「そもそも素因数分解ってなんだっけ?」と思うだろう。恐らく、大多数の日本人はそうだ。
だが、QuizKnock出演者の彼らは違う。彼らの反応は「おお〜!!(感嘆)」である。
出演者は皆、この答えが的を射た答えであることを一瞬で理解しているのだ。
すかさず、彼らの間では「素因数分解の困難性が、RSA暗号の暗号理論の元になっているからね」「たしかにたしかに」という、一般人を完全に置き去りにした会話が発生する。(テロップが全力で補足している)
そして、視聴者向けに「みんなのLINEが他人に読まれないのは、素因数分解が難しいからだよ」などの補足説明が入り、ひとしきり盛り上がったあとに、それが正解として選ばれる。
絶対に地上波ではありえない現象だ。99%のお茶の間の人をバッサリ切り捨てる結論を、テレビは選択しない。
だが、QuizKnockは迷わず「素因数分解」を選択する。これはホントウにすごいことだ。
恐らく、人類の上位1%のインテリにしか納得感のない答えだが、それが「正解」になってしまう。
インテリ視聴者にとってこれほどの快感はない。まさに「かゆいところに手が届いた」感覚。
そう、これは、面白さを通り越してもはや快感であるのだ。
あるいは、快感さえも通り越して「救い」ですらあるかもしれない。
インテリはこの「正解」に救われる
僕の話をしたい。
先に、人類の上位1%のインテリ、という表現をしたが、僕はそこに入っている自負がある。
そんな僕は、いつもあるストレスを溜め込んでいた。
それは、高い知識水準を持つ笑いを封じなければならないというストレスである。
例えば、数名でトランプの「大富豪」をやっていたとしよう。最初のルールの設定の段階で、こんな会話が行われる。
これ、実際に何度かやったことがある会話だ。
だが、僕の最後の「資本主義ってそういうものだろ?」は、発言されたりされなかったりする。その場のメンバーによって決まるのだ。
「いや、だからこそゲームくらいは資本家に一矢報いたいじゃないか」あるいは「たしかにね。革命が起こっても結局順位が入れ替わらないこともあるしな」くらいの回答をしてくれそうなインテリがいる場所ならば躊躇なく発言するし、そうでない場合は発言しない。
あるいは、ゲームに飽きてきた頃に、こんな会話が行われる。
これもだ。この僕の発言も、場にいるメンバーを見て発言する。そして、これはさっきよりハードルが高い。
「なんでマルクス的な社会の進化を辿ろうとしてるんだよ!」的なツッコミをしてくれそうな人がいない限り、僕はこの発言をしない。
そんなワケで、僕はいつも「高度な知的水準を前提とした笑いを取りたい」と思いつつ、「このメンバーでこれを言ってもダメだな」という諦めを持つ。
この諦めは、もはや条件反射になっている。誰かと会話をしているときも「大衆が理解すること」の中で面白いものを探すし、「大衆が理解すること」しか発言しない。
これが、インテリの諦めである。断言するが、世の中のインテリは意識的にしろ無意識的にしろこの手の諦めを抱えて生きている。
さて、話を戻そう。
QuizKnockのコンテンツは、まさにこの「インテリの諦め」を一切していない人たちのコンテンツなのだ。
メンバーは皆、東京大学の学生である。それだけではない、クイズを好み、知識を貯め込むことを好み、知的操作によって問題を解決することを好んでいる。
まさに、インテリ中のインテリだけを集めてきた集団だ。高度な知的水準を要求される発言をしても、必ず誰かが拾ってくれるという安心感がある。
きっと、QuizKnockの収録作業は楽しくて仕方ないだろう。インテリの諦めを必要としない空間は、それほど居心地がいい。
そして、QuizKnockの動画は、この居心地のいい空間を追体験できる。
これは、”救い”に他ならない。
人と会話するとき、いつも「インテリの諦め」を抱えているインテリ達への”救い”だ。
QuizKnockの動画を通して、諦めが必要のない最高の空間を追体験することで、いつも抑え込んでいる自分を噴出させたような気持ちになれる。
そう、QuizKnockの動画がなぜ面白いかといえば、疎外されがちなインテリ的切り口が救済される喜びがあるからなのだ。
非インテリへ唾吐く要素もある
ここまで、QuizKnockは「インテリを救済している」ことを言及したが、「非インテリへ唾を吐いている」ということも合わせてお伝えしておきたい。
典型的なのは、こちらの動画。
「東大主」という企画である。
TBSの番組「東大王」のパロディである。本人たちいわく「リスペクト企画」らしいが、はっきりと本家をバカにする要素がある。
普段インテリがクイズ番組を見ていて感じる違和感を見事に取り上げて、それとなくバカにしているのだ。
以下、動画の内容を見てみよう。
動画は、クイズ出演者に対する過剰な煽りから始まる。
問題それぞれに対しても、大きな煽りがついている「超難問!」と宣言されてから問題が読まれるのだ。(このあたり、本家「東大王」を忠実に宣言している)
そして、出てくる問題はといえば……
この簡単さである。
これに対し、ボタンを押す伊沢(画面左)。
すると、すかさず観衆から「ええ〜っ!?」という驚きの声が上がる。
「地球」と答えを言うと、観客はまたも「おお〜!」と驚き、拍手をする。
お分かり頂けるだろうか、これは全て、地上波のテレビ番組を見ているときにインテリが抱えるガッカリ感を、コンテンツに昇華させたものである。
「誰もが認める天才」といった演者への過剰な煽りや、「超難問」といった問題への煽り、観客の過剰な反応、そして中身はといえば「いや、それ煽るほどのものか…?」というガッカリ感。
このガッカリ感を、非常にセンス良くコンテンツに昇華している。
しかも、事実上「地上波クイズ番組をちょっとバカにしてやろう」という企画にも関わらず、実際に東大王に出演し、実際にクイズ番組を愛してやまないクイズ王の伊沢がやるからこそ、嫌な感じを視聴者に与えない。
実際、編集や演出も、過度にバカにする方向に振りすぎず、絶対に怒られないような程度に留めている。QuizKnockの実力が伺える動画である。
また、こちらの「東大主」の企画で、僕が大いに笑ったのはここだ。
この指示が前振りで出て、すぐに「5」と「2」という2つが表示される。
そして、問題はこちら。
ここまでと同じパターンで、誰でも答えられる簡単なもの。
これに対して、ボタンを押した伊沢は、「10」と回答。
もちろん正解なのだが、正解のあとに出題者に問われるのである。「出てきた数字、全て覚えていたのですか?」と。
伊沢は答える「そうですね。5と2ですね。このくらいなら、5つくらいまでは覚えられます」と。
これを受けて、動画に流れるテロップがこれだ。
「この記憶力と計算力、まさに人間コンピューター!!」である。
地上波クイズ番組でよくある過剰な煽りを、豪快にバカにしている。
この動画を見て「スカッとした」という感覚になるインテリは多いだろうが、それはいつも抱えていた地上波番組に対するモヤモヤを、気持ちよくバカにしてくれるからだ。
「インテリへの救い」は、YouTuberにしかできない仕事
まとめよう。
前述の通り「大衆に届ける必要がないので、マニアックな内容を扱える」というのは、YouTuberの大きな強みだ。
そして、QuizKnockはまさにその強みを活かしてインテリへの救いを提供している。
絶対にマスメディアではできない、99%の非インテリに媚びないコンテンツ制作が可能なのだ。
また、ただマニアックなだけでなく、「テレビ的な面白さ」をしっかり作り出していることがすごい。
これは、革命だといえるだろう。
はなおさんをはじめ、インテリらしいコンテンツを作るYouTuberは他にもいたが、これは「テレビ的な面白さ」には到達できていなかった。
QuizKnockの素晴らしいところは、インテリのためのテレビ番組といえるものを作り出したことだろう。
これは、既存のテレビ番組に苦しみを覚えていたインテリにとっての、救いに他ならない。
そして、この救いを作ることは、YouTuberにしかできない仕事だ。
インテリへの救いは、ここにあった。
救いを作り出しているQuizKnockは、ホントウにすごい。
おまけ-その他のオススメ動画
QuizKnockの素晴らしい動画は紹介し始めると枚挙にいとまがないが、他に僕が特に感心したものをいくつか紹介しておこう。
【東大流の闇鍋】文章ごちゃ混ぜの問題文が支離滅裂
趣旨としては、「皆が持ってきたクイズの問題文4つをバラバラに詰め込んで出題する」という企画。
これ、企画がホントウに秀逸ですごい。企画屋として嫉妬するほどのできだ。
完成した問題文が面白すぎるのである。
「棒付きムラサキピリ辛動物は何でしょう?」という文字列、面白すぎる。
そして、この謎の問題文から、ちゃんと正解に歩み寄るクイズガチ勢の演者がすごすぎる。
4人中3人が全問正解。すごすぎる。
他の問題も全部面白い。「うどん人間のきりたんぽ漁場」という文字列で爆笑してしまった。
ぜひ、動画を見てみてほしい。
4000択クイズ
タイトルではピンと来ないけれど、僕はこの動画に一番感心したかもしれない。
企画の趣旨としては「番号と一緒に、クイズの答えを言わないといけない」というもの。
この説明の時点ではピンとこないのだけれど、一問目で企画の意味が分かる。
答えは「Y」であるが、問題は番号である。
最後まで聞いてもいいのだけれど、出演者は早押しで勝つために選択肢を予想する。
川上(画面右)は、「1.X 2.Y 3.Z」の三択であろうとあたりをつけて、この回答をする。
読みとしてはとても良い読みだと思う。(僕もそう思った)
だが、結果は不正解。そして、問題の続きを聞くと、企画の趣旨が分かる。
ひたすら、アルファベットの羅列が続いていくのだ。
ここで、出演者たちも皆趣旨を理解する。答えは「25.Y」だ。
選択肢が何らかの法則性に基づいて配置されているので、法則性を予想して数字をすばやく答えるゲームなのだということがここで判明する。
プレイヤーたちは皆一流なので、このことが分かれば、どの問題も爆速で正解を叩き出す。
この企画も、もしマス向けにやろうと思ったら解説が多くなりすぎて面白くもなんともなくなってしまう。
マス層に細かく説明する必要がないからこそできる、ホントウに面白いクイズ企画だ。
意味が分かると怖い話、意味早わかりクイズ
これも、シンプルながら非常に優れた企画。QuizKnockの企画力の高さがよく分かる。
「意味が分かると怖い話」をクイズにするという、せっかくの怖さを台無しにする企画である。
全員、早押しクイズが得意なので、確定ポイント(ここまで聞けば答えが確定する)をしっかり理解している。
全員がここまで聞いてボタンを押す。コンマ何秒の戦いという早押しクイズの妙が、怖い話でもちゃんと成立しているという感動がある。
まとめ
以上、僕が人生で初めて鬼ハマりしたYouTuber、QuizKnockについて見てきた。
そして、彼らは、マス向けでは作れないインテリへの救いを作り出していることを述べた。
僕はYouTuberをそれほどすごいとは思ってはいなかったが、今回QuizKnockにハマった体験を通して、YouTuberという存在の可能性を強く感じた。
そして、僕もせっかくだからYouTuberとして色々作っていきたいなと、今は思っている。
今年は、自分のYouTubeチャンネルで色々上げていくつもりだ。
当座、「ブログにするほどでもないが、発見した気になるもの」について動画を上げていこうと思っている。こんな感じで。
それ以外にも、色々考え中ではある。
だいぶ時代に遅れての参入にはなったが、今年は僕もYouTuberとして可能性を模索したい。
よければ、チャンネル登録しておいてもらえると励みになる。よろしくお願いします。