意味が分からないくらい面白いマンガに出会うことがある。
文字通り寝食を忘れて、他の全てを捨ててでも、没頭したいマンガに出会うことがある。
それ以外を全て放り出して、読み切るのを優先してしまうこと、
今までの人生で、4回あった。
一度目は、10歳の時、「るろうに剣心」。
二度目は、13歳の時の「HUNTER×HUNTER」
三度目は、16歳の時の「オナニーマスター黒沢」
四度目は、17歳の時の「シグルイ」
しかしまあ、さすがにそれから僕は大人になり、分別を身に着けた。
感情を揺さぶられる振り幅も、多感な思春期よりも小さくなった。
だから、もうあんなに取り憑かれたように没頭することはないと思っていた。
しかし、先日、全てを後回しにしてマンガに没頭してしまった。
それが、こちら。マンガ「累」である。
「累」と書いて「かさね」と読みます。
もうね、これがめちゃくちゃ面白いのです。血を吐くほど面白い。
本日はこちらのマンガについて。
テーマは「美醜」
物語開始1ページ目から、いきなり強烈に引き込んできます。
この辺の構成も見事。物語の主題をいきなり提示する形です。あらすじはこんな感じ。
ヒロイン”淵 かさね”は、伝説の女優だった”淵 透世”の娘。
母親は絶世の美女であったにも関わらず、娘は似ても似つかない醜い容貌をしていた。
容貌と、母に似ていなさすぎる事実を毎日のように同級生からからかわれ、小学生のかさねの精神は限界に達していく。
そんな時、母に言われた「赤い口紅」のことを思い出す…
人間の美醜という、極めてシンプルでありながら非常に力強いテーマを、圧倒的な表現力で描く傑作です。
「顔を奪う」ことができるヒロイン
かさねは、母の形見の赤い口紅を使い、ターゲットにキスをすると、顔を奪うことができます。
伝説の女優である母譲りの演技力は負けないものの、醜い容貌のせいで「シンデレラ」役をやれなかったかさねは、クラス一の美少女の顔を奪います。
そして、容貌が醜いがゆえに与えられてこなかったチャンスを、掴み取ることができました。
彼女は「シンデレラ」として、ステージに登ります。
かさねは、美女として、ステージの上で脚光を浴びる快感を、その全身で感じます。
皆からの惜しみない賞賛と、自分の演技に誰もが酔いしれる時間は、人生最高の瞬間でした。
そして、その絶頂の中で、一つの疑念に到達します。
母の顔は、本当は母のものではなかったのではないか?
だとすれば、母と自分の顔が似ていないのにも納得できる
母の顔への疑念と、この能力をどう使えばいいのかという疑問。
そして、顔を奪った人を傷つけてしまう自責の念が一斉に訪れ、苦しみながら、一つの結論に達します。
それでもこの魔法は 私にひとつの道を示した
それがどんなに険しい悪路であろうと
母のあしあとを信じて 累ね歩いてゆくしかない
醜い自分を捨て 美しい誰かになるために
あまりにも悲しい答えですが、かさねは母と同じ生き方をしようと決めます。
醜さゆえに受けた迫害の数々が、彼女をこの答えに導きました。
そして、この後の彼女はずっと、演じる快感と、人の人生を奪う葛藤の間で生きていくことになります。
口紅の制約
中学に進学したかさねは、やはり迫害を受け続けていました。
口紅の能力は万能ではなく、12時間程度で顔は戻ってしまうのです。
この制約はあまりにも厳しいです。一時的に誰かになりすませたとしても、効果が切れればたちまちことが明るみに出てしまう。
そうそう口紅を使う訳にもいかず、やはり苦しい毎日を送っていました。
全てを知る協力者
そんな中、かさねの前に協力者が現れます。
やはり、かさねの母親・透世の顔も、本来のものではありませんでした。
そればかりか、母親は生前、「娘にも同じ道を歩ませろ」と指示していたようです。
この演出家の言うことはどこまで本当なのか?
母はどのようにして美女の顔を奪い取り、どのようにして誰にもバレずに生き抜いたのか?
これからかさねは、どう生きていけばいいのか?母と同じように、人の顔を奪って脚光を浴びて生きるべきなのか?
醜い人間は、美しい仮面を被って生きていくべきか?
そんな迷いや悩みが交錯しながら重厚な物語を織りなしていきます。
人間の美醜について、読者にも骨太に考えさせる傑作です。紛れもない傑作。
と、紹介してきた内容が、1巻の内容です。内容が濃い!
既刊は12巻まで出ていますが、スピード感は全くにぶらず、一気に読ませる構成です。
以下、本作の見どころを、印象的なシーンと共にご紹介。
美醜について、これでもかと掘り下げる
美しい者への”賞賛”と”自信”!その醜悪なツラでは絶対に味わえないはずのものだ。
お前はそれを再び いや 何度でも求めるはずだ
この反応 表情 顔をさらしただけで!
大体……私もあなたも 皮をはいだら同じ血と肉ときたない心のかたまりだろうに
それを整った顔の裏にかくすことができるなんて…ずるいわ
本作には、全くオブラートに包まない会話がたくさん出てきます。
全員がむき出しの情熱や狂気と共に生きており、美醜に対して奇譚のない意見が交わされます。
デリケートな話題をメインテーマに選んでいるだけに、普段はなかなか聞けない議論が聞けます。ピンポイントテーママンガの魅力!
手段を選ばない二人が、補完し合う
本作で非常に重要になるサブキャラクター「丹沢ニナ」は、絶世の美女でありながら、治らない病気を抱えています。
しかしそれでも、どうしても舞台に立ち続けたかった。彼女もまた、執念に取り憑かれていました。
彼女がした選択は、かさねに自分の顔を奪わせて、自分として舞台に立たせること。
だから今は……
どんな手を使ってでも”丹沢ニナ”を舞台に立たせる
たとえそれが 私自身じゃないとしても
どうですかこの狂気!
人の顔を奪いながらでも、舞台に立つ脚光を得たいというヒロインの狂気にも負けず劣らず、自分を舞台に立たせ続けたいという狂気を抱えています。
似た狂気を抱えた二人が、お互いに補完し合う。非常に美しい物語構造です。
繰り返す、憎しみと裏切りの連鎖
ネタバレになるのであまり深くは言いませんが、他人の顔で他人としてステージに立つといういびつなことをしていると、やはり様々な問題が表出してきます。
結果、本物との関係がこじれ、憎しみや裏切りにつながります。
よくわからせてあげる
あなたが にせものでしかないと いうことを
こんな、何度も憎しみが爆発するようないびつな行為を続けながら、それでもかさねは女優としての道を邁進します。
自身も何度も苦しみ、傷つきながら、それでも母と同じく美女として女優として生きていく彼女の姿に、震えながらページをめくり続けてしまいました。
まとめ
以上、傑作マンガ「累」についての紹介でした。
とにかく内容が濃い!そして一気に読んでしまう!!
体力を削られるタイプのマンガですので、休日に一気読みがオススメです。
Kindleでまとめ買い待ったなしですね。
明日からの土日のお供に是非。文句なしにオススメです。