「ゼロからトースターを作ってみた結果」という、ホントにホントに素晴らしい本を読みました。
ということで、今日は全力で紹介します。
ゼロからトースターを作ってみた結果
どういう本なのかと言えば、ゼロからトースターを作ってみる本です。すごく分かりやすいね!
この本を読んでいると、「あ、そこからやるんだ!」と衝撃を受けます。”ゼロから”という表現に1ミリの偽りもありません。
ちなみに、最終的なトースターの写真がこちらです。
皆さんはどう思いますか?僕は
と思いました。
トースター作りの困難さを物語っていますね!
本書のトースター作りで、著者が課しているルールは以下の通り。
- 店で売ったときに、トースターといえるものを作る。ただのたき火をトースターと言い張るマネはしない
- 部品の全てを、原料から作る。すなわち、自然から採取されるものから作る。
- ”産業革命以前から使われていたものと、基本的に変わらない”技術だけを利用する
読み進めていけば分かるのですが、このハードルはかなり高いです。
②のルールがあるから、トースターに使われる銅線や電熱線、コーティングされる雲母などを手に入れるために地球上のあらゆる鉱山を行き来しないといけない。
③のルールがあるから、金属を溶かしたいときに、工場が使えない。家の庭で金属を溶かさないといけない。
そんな、とんでもない労力とお金と時間をかけた、若者の冒険譚です。
本の見どころ
笑っちゃう大がかりさ
鉱石を山に掘りに行ったり…
鉄鉱石を庭で融解させようとします。
鉄鉱石の融解は、手に入れてきたチムニーポットを加工して融解炉にして行っています。
一晩ひたすら熱し続けるという、鬼のような作業をしていました。
読んでる間、ずっと
と、思わず笑ってしまいます。
この大掛かりさが、本書の一番のウリです。
軽妙な文章
この本は、イギリスの大学生だった著者がブログに書いた内容をまとめたものです。
そのブログは結構ウケたらしいのですが、文章が圧倒的に面白い!
すごく軽いテンポで読めるし、間に挟む欧米っぽいジョークの数々もたまりません。
PLA、またの名をポリ乳酸は、使い捨てカップを作るために使用されるバイオプラスチックだ。
乳酸と聞いて僕は、「運動をした時に起きる筋肉痛の原因は、乳酸の増加によるものだ」という話を真っ先に思い出した。
でも、エアロビに励んだ後、自分の筋肉から乳酸を抜くというアイデアは、ちょっと恐ろしすぎるので即座に却下した。
この調子で、非常に読みやすい軽妙な文章です。
屁理屈で捻じ曲げるルール
僕がこの本を大好きな理由が、失敗しまくるという点にあります。
ありとあらゆるところでとにかく失敗するんですが、その度に、都合よくルールをねじ曲げていきます。屁理屈をつけて。
僕はこの屁理屈も大好きでした。
と、笑いながら読めます。象徴的な部分を一つ紹介します。
トースターの筐体部分をプラスチックで作るために、著者はじゃがいもからバイオプラスチックを作ろうとします。
しかし、結果はあえなく失敗。途方に暮れた著者の書いた文章がこちら。
状況を整理しよう。原油はまず手に入れられそうにない。そして、皆が忠告してくれたように、それをプラスチックに変えるのは、個人レベルでできそうな作業ではない。バイオプラスチックにしても同様だ。
唯一、実現の可能性がありそうだったのは、じゃがいものプラスチックだけだったけど、結局固める段階でひび割れてしまった。
ならば、「原材料」として、廃棄してあるプラスチックを拾ってきて、それを再加工してトースターの筐体を作るという案はどうだろう。
いや、廃棄プラスチックは「原材料」とはいえないと考える人もいるだろうことは分かっている。でも僕の考えは少し違う。
ちょっとした水平思考をしてもらえれば、プラスチックも原材料のカテゴリーに入ることが分かってもらえるはずだ。
近年、地質学会では、新しい時代──「人類の時代(アントロポセン)」──の幕開けを宣言すべきか否かという、激しい議論が行われている。毎年新しい時代が始まるわけではない地質学の世界では、これは一大事だ
(中略)
ええ、ルールの拡大解釈だということは認めますけど、そのルールは僕が作ったものだから、僕が破りたかったら破ってもいいんです。
ちゃんとせい!!という皆のツッコミを受けつつも、どうにかトースター完成に向けて頑張る著者を応援せずにはいられません。
大量消費社会への疑問の投げかけ
そして、この本は示唆に富んでいます。当たり前に使っていたトースターの仕組みを、僕たちは知らないのです。
以下、本書の序盤から引用。
「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズの第5作目、「ほとんど無害」に、次のような一説がある。
自分の力でトースターを作ることはできなかった。せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ。
この物語の主人公にして、典型的な20世紀型の地球人、アーサー・デントは、技術的に未発達な人間が住む惑星に足止めを食らう。
そうした状況の中、アーサーは彼らの社会を自分のデジタル時計や内燃エンジン、電気トースター等の科学知識と近代技術で変えて、革命を成し遂げることで、天才だと認められ、皇帝として崇められるのではないかと思いつく。
しかし、彼は周りの人間社会がなければ、自分では何も作ることができないことを思い知らされる──ある日の午後に何気なく作ったサンドイッチを除いては。
(中略)
生活を支える基本技術への知識が明らかに乏しいのは、僕ら現代人のほとんどにとって、アダムスが書いたとおりだろう。
現代社会は人間を実践的能力から切り離しているという考えは新しいものではなく、そして多くの場合、否定的な意味を含んでいる。
僕たちは、トースターの作り方を想像することなどありません。
だから、トースターを作ることはできない。
トースターだけじゃなく、身の周りのほとんどのものを僕たちは作れません。それなのに当たり前にあらゆるものを手に入れながら、豊かに暮らしている。
これってもしかして異常なことなんじゃないか?
5ドルで買えるトースターを作るために、何ヶ月もかけて世界中を駆け回る著者の姿を見ながら、読者はそんなことを考えてしまいます。非常に示唆に富んでいる。
まとめ
以上、非常に示唆に富んでいて、冒険譚としても面白い「ゼロからトースターを作ってみた結果」の書評でした。
僕は、あの村プロジェクトをやっている職業柄、”ゼロから作る”というキーワードに食いついたのですが、現代に生きる皆さんも是非読むべきだと思います。
大量消費社会で、当たり前に使っていた工業製品の出自に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、著者がTEDでプレゼンしてる動画もあります。